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アイアンメイデンの抱擁

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鉄の処女、アイアンメイデン。中は空洞になっており、そこに人間を閉じ込める。内側にはびっしりと棘がしつらえてあり、拷問器具として用いられている。多くの人は、その棘に貫かれて絶命するよりも、残忍な見た目に慄き、ひきつけをおこして死ぬという。
男は処刑人に引かれアイアンメイデンの中に立たされた。アイアンメイデンは片側に蝶つがいがあり、鋳型のように開閉する仕組みになっている。
「これより蓋を閉じる。身体中を棘で貫かれ、噴き出した血が樋を通って樽を満たした時、お前の刑は終了する」
処刑人の言葉をきき、男はただ頷いた。
***
蓋が閉じ切るまでの間、鋸が哭いたような不快な金属音が響いた。男の身体と無数の棘がこすれ軋む音だ。
ところが蓋が閉まってしまえば、広場は水をうったように静まり返った。男の呻き声ももがく音も聞こえない。
群衆も固唾を飲んで見つめていたが、一向に血は出てこなかった。誰もが不思議に思ったが、刑は執行中であるため手を出すことはできない。結局そのまま男の血が樽を満たすのを待つしかなかった。
***
それから数日、数週間と経ったが相変わらず樽は空のままだった。アイアンメイデンは野晒しのまま捨て置かれ、さらに時が過ぎた。
ある日、篠突く雨がそこいら中を叩いた。飛沫にけぶるアイアンメイデンは粛々と立ち続ける。
***
晴れ上がった空の下、激しい雨の痕跡は微塵も見せず爽やかな風が広場を吹き抜けていた。
そんな時、アイアンメイデンの中に溜まっていた雨水がチトチトと垂れ始めた。水は真っ赤に濁り、濃い鉄のにおいを放っていた。赤錆が溶け込んだ水は樋をつたって一滴ずつ樽の中へ集まってゆく。それは黄色味がかった赤褐色から徐々に赤味を帯び、水嵩が増す度に、深い紅になっていった。
***
見回りにきた処刑人が気付いた。
「ようやく樽が血で満ちたようだ」
作品名:アイアンメイデンの抱擁 作家名:Syamu