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てっしゅう
てっしゅう
novelistID. 29231
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「父親譲り」 最終話

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「黒田さん、私は奥様の代わりにはなれないかも知れませんが、これからの人生を一緒に歩いて行けたら、少しはあなたの気持ちを和らげることが出来ると思います。私の全ても話しますからそれを承知で考えてください」

笹川は拍手をした。感動したのだ。
人生は長ければそれなりの苦難は経験する。
ここに居る四人はみんなが幸せになれそうな予感がしていた。
もちろん黒田は結婚を快く申し出て沙代子も快諾した。

男遊びのつもりで婚活を利用しようとした沙代子と美津子ではあったが、そこで知り合った男性に本気で恋をした。
自分たちの欲求不満は体にあったのではなく心に深く根差していたことに気付かされた。

美津子は笹川の立派な男性自身に初めて女の歓びを与えられた。それも彼の優しい気持ちと自分の両親に対しての感謝の気持ちが嬉しくて感じられたことだ。
遊び心でセックスをしても体は覚えても心は忘れる。
何人とどれだけ歓ばせてもらっても残るのは空しさだろう。

沙代子は黒田の稚拙なセックスを不満に感じなくなった。
それは心に彼の大きな気持ちと自分のあふれる思いがあるからだ。
満たされた幸せは50年間の人生の中で求めてきたものに違いなかった。

笹川との結婚は翌年の秋にお互いの両親と兄弟だけで執り行われた。
初めて式に参列した父はその涙を誰にはばかることなく見せていた。
母もこれからは孫を囲んで楽しい老後が来るだろうこと、そして何より夫婦の間に愛情のあるセックスが行えているという歓びもしばらくは続けて行けることだろう。

沙代子は黒田の両親が二度目だということで結婚式は遠慮したほうが良いとの意見を呑んで自分たちだけで届を出して海外へ新婚旅行に行こうと決めていた。
美津子は笹川の仕事も兼ねて行けなかったモロッコへ新婚旅行を予定していた。
勤務していた住宅会社を退職してこれからは笹川の仕事を手伝うことになっていた。

美津子は旅行から帰って来てすぐに妊娠した。
自宅で出産をしてしばらくして東京に移転していた自宅兼事務所がある渋谷に戻っていった。
母親の良子は心配で毎月のように名古屋と東京を往復していた。

沙代子は専業主婦となって黒田との生活を楽しんでいた。
亡くなった元の妻との間には子供が居なかった。余計に自分が産めないことをちょっと気にしたが、彼はだからこうして仲良く人生を楽しめるんだ、といった言葉で救われていた。

二度目の人生が幸せになれたことで二人の女性は夫を大切にするだろう。
不幸だった女性を幸せにすることで二人の男性は愛されるだろう。
人は苦しみの分だけ幸せになれるといった言葉があるけど、何が幸せなのかを知らなくては苦しみからは脱することが出来ないのかも知れない。

「父親譲り」 終わり。