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青井サイベル
青井サイベル
novelistID. 59033
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むくろの姫

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姫は煙草を消し、残りの水割りを飲みほして、ソファに深く沈みました。
それだけでもう、姫がどんなむすめかわかるでしょう。
違いますか?


青いソファは古く、でも寝心地はすばらしく、姫はそこに身を預けるのが好きです。
飼っている赤い金魚の「朱夏」も愛しています。
最近甘いお菓子を食べなくなりました。
甘いもので口にするのはせいぜいアマレットのショットくらいで。
哀しいのです。
この世のすべて、といっては語弊があるかもしれませんが、誰も彼女の人生に立ち入ってくれないこと、または姫じしんが立ち入らせないことを。
なぜなら彼女は自我が強かったから。
母の女王に言われたものです。
「あなたは我が強いからきっと苦労するわ」
その呪いは、しっかりと姫をからめとり、彼女はもはや自由を得ません。
とてつもなく自由なはずなのに、それを全く感じられないのです。


姫は強い王子に何人も出逢いました。
これは、と思う王子もいました。
ただ、それはほぼ思い違い、恋の鬼火の誤った魔力に過ぎませんでした。
姫じしんがきちんと成長しなければ、目は養えない。
そのことを一体誰が教えてくれたでしょうか?
いいえ、誰も。
そんな学問はないのです。


姫をなぐさめるのは、その場しのぎのものばかり。
手に残るのは何もない。
そしてまた煙草に火をつけ、酒に口づけて、眠くないのに眠いふりをする夜の、
とりどりの灰色の夢ばかり。


ある日、まったく予想もしない緑色の空の夜明けに姫は目覚め、悟りました。
死を選ぼう。
そして、その気持ちだけをもって、あの一番小心で奥手だった王子の国へぶらぶら行ってみようかと。
そこにあるものを見、嗅ぎ、触れ、感じ、彼に挨拶をする。
それからでも遅くない。
よく言うではありませんか?物事に遅すぎるなんてことはないと。


訪ねると王子は小さな庭で、小さな花に肥料をやっているところでした。
「お邪魔だったかしら」
「いえ、少しも。あなたのこと、僕はずっと想ってた。助けたいと」
「わたしを助ける?何から?誰から?」
「すべてから。僕は花の手入れをするくらいしかできないけど、あなたも花だ」
「ではわたしのひどい心をなんとかしていただけますか」
「僕にできることなら」


姫は突然、宇宙に押し潰されるように泣き喚き始めました。
それは王からも女王からも得られなかった言葉。
誰からも得られなかった言葉。
彼女はあまりのその喜びに、胸を刺し貫かれ、その場に倒れました。
彼女の心臓はもう、止まっていました。
それでよかったのです。


姫は生き返ることはなく、王子は姫のむくろを庭に埋めました。
翌春、小さなうすべにの花がその墓から咲きました。
王子にはわかっていました。
「わかっていますよ」
するとその花のあった地面が割れ、うすべにの手が、腕が突き出され、王子は大きな移植ごてを持ってきてそこを掘りました。
姫は泥だらけでせきこみ、王子の手につかまりました。


「僕と結婚してくれますか」
「そう、そうだったのよ。わたしわかってなかった」
「そういうこと、ありますよね」
姫は子供の頃いらい浮かべたことのない笑みをうかべ、王子はそれまでずっとそうしてきたように静かな笑みをうかべ、
やがて二人は手をとりあって大笑いしました。
いつまでも。
世間がいつまでも姫を責める?
それは間違いというものです。


王子と姫は翌日その庭で二人だけの婚礼をおこないました。
二人の頭上に大きな青い蝶が現れ、いつまでもいつまでもぐるぐるとめぐり舞いました。
二人は互いの想いを心になぞり、蝶の下で手を取り合い、誓いを立てました。
「永遠に」
「あなたくらい勇敢な王子さま、見たことないわ」


作品名:むくろの姫 作家名:青井サイベル