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てっしゅう
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novelistID. 29231
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「父親譲り」 第十六話

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沙代子は美津子が自分のことを気遣ってくれていることを喜んだ。彼とのことで少しわだかまりを感じていたが、四人で旅行すればいろいろ話せて彼も刺激を受けてちょっとは生まれ変われるかもしれないと期待をしていた。

自宅に戻ってきた美津子は父親と母親に彼のことを話した。
文句が出ると思っていたが父親は彼のことを聞くとにこやかな表情に変わった。
それは意外な事であった。
母は賛成してくれた。それは金持ちということではなく、娘が幸せそうな表情で話していることを汲み取ったからだ。

親子、特に母娘とはそういうものなのだろう。
落ち着いたら家に連れてきなさい、と父は最後に言ってくれた。
「はい、そうします」と返事してその夜笹川にラインをした。

「今両親と話しました。都合を見て会って欲しいのですが、旅行の後でもいいので考えておいてください」

返事は直ぐに来た。

「光栄です。すぐにでも都合つけるから連絡入れます」

彼と父親の対面はこの後直ぐに実現する。
その席上で思ってもみなかったことが起こるのだった。

彼が家にやってくる約束の前日、会社で美津子は沙代子に電話をした。
もう結婚の申し込みにやってくるのかと驚きの表情をしていたが、おめでとうと言われて、嬉しくなった。
急に彼が決めたので温泉に行く前になってしまったけど、その時には将来の具体的な話もひょっとしたら聞かせられるかも知れないと話した。

幸せそうな言葉の美津子を見て自分はどうなってゆくんだろうかと気持ちに不安がよぎっていた沙代子であったが、二人のおめでたいことに刺激されて自分と彼の関係も大きく進展する可能性も予測された。

夜笹川からのラインで明日はよろしくと言われて眠りに就いた。
早くに目が覚め母と二人で最後の片づけをして、彼を迎える準備に怠りが無いか確かめていた。
父は久しぶりに着る着物で母を驚かせていた。

「あなた、どうされたの?珍しくお着物なんて」

「こういう時にしか着れないから着たいと思ったんだ。お前も着物着たらどうだ?」

「ええ?私がですか」

「着る機会なんてそうないだろう。いいもんだぞ」

父にそう言われて母は慌てて親戚に電話をかけて着付けを頼んでいた。
1時間ほどして叔母がやってきて母に着物を着せた。