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ボンゴ

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ボンゴ


1章

 白いボンゴに乗った用心棒たちが、立ち去っていった。
 全ての奴らが見えなくなると、彼女は扉から出て、血まみれのコート姿のまま、錆びたフェンスの横まで椅子を運び、テーブルクロスを広げた。
 小柄で均衡のとれた雪豹のような気配だった。軽くカールがかかったショートヘアー。俺より十歳も年上で、四十四歳と刑事が言っていたが、二十七、八にしか見えなかった。
 雪豹は生まれつき人と交わることができない。二月の雨の日、動物園でみた雪豹は、69番の檻の中で、人間たちが笑いかけているのに、そちらを一度も見ずにフェイクの岩盤の周りをぐるぐる回っていた。
 白いシフォンのコートを翻らせ、血のついた小さなシースナイフで、パンにマスタードを塗って、
「ピクニックだとおもってください」
 とこっちを見上げ、少し大きい声で屋根修理をする俺に言った。俺が返事をしようとすると、彼女はいつも目を伏せる。
 六日前からこの家の屋根の修理をしている。町から遠くの、森の中の水路に囲まれたこのボロい一軒家には、乳と珈琲の匂いがこびりついていた。
 麻雪(まゆき)の留守中、八代署管内の刑事が来た。鏡町の資材置き場に白のボンゴがあり、そのボンゴの持ち主の三十代半ばの男が刺され、車内で死んでいたと言った。麻雪が勤める船舶材料卸の会社の男だった。

作品名:ボンゴ 作家名:28ドル