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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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持たざる者の球根活動!

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「はぁ……今日もダメダメだったなぁ」

婚活パーティに参加してみたものの、
対抗馬はIT社長とか企業家とかばかり。
なんの才能もない俺には誰も振り向いてくれなかった。

家までの帰り、見慣れない店があったので入ってみた。

「いらっしゃいませ。球根屋へようこそ」

「球根……ちょっと買ってみるか」

住んでいるマンションではペットは飼えない。
だったら、せめて植物でも育てれば
多少は話のネタや心の癒しになるんじゃないか。

球根を1つ買って、家に持って帰った。
土を張った植木鉢に入れようと球根に手をかけた瞬間。

「うわっ! 球根がっ!!」

ズズズ、と球根は俺の掌に吸い込まれてしまった。
手には球根が生えている奇妙な状況に。

何度引き抜こうとしても、まるで抜けない。
慌てて病院に行ってみたが医者もこんなのは初めてらしく

「無理ですね」

「えええ!? 手術とかで摘出できないんです!?」

「レントゲンで見たところ、すでに根を張っているんです。
 これを摘出するのはさすがに……」

「そんな!!」

掌に球根が生えた奇妙な男のまま生きていくしかないのか。



それからしばらくすると、球根に変化が出てきた。
俺からの栄養を吸い取っているのか球根はどんどん大きくなり
掌から大きな花を咲かせた。

「はぁ……花なんて咲かれたら、目立っちゃうなぁ」

なんとか解決方法はないものかと、
ネット検索していると、なぜだか異常に効率がよかった。

というのも、見た記事の情報をすべて記憶している。
覚えようと努力しているつもりはないのに。

昔から記憶力はない方だったはず。
けれど、スポンジのようにぐんぐん情報が入っていく。

「すっ、すごい! なんだこれ!?
 まさか……これが球根の力なのか!?」

前の球根屋に戻り、同じ球根を探す。


『球根:きおく』

「やっぱりだ……!
 そうか、この球根は才能を引き出す球根なんだ」

「ええ、そうですよ。
 球根をちゃんと育てれば、才能を開化させられます」

俺は店の球根をいくつも買って帰った。
球根を体の空いているスペースに植え込むと、
体のあちこちから球根が生えている人間が出来上がる。

「ああ……花が咲くのが楽しみだ!」

花が咲くと、俺の才能は大いに爆発した。
記憶力だけでなく運動能力も開花し、
想像力やコミュニケーション力も一気にあがった。

「やった! まさに完璧超人だぜ!」

これなら大丈夫と安心して再び婚活パーティにリベンジ。
自慢の才能をいかんなく発揮するつもりだったが……。


「えーーと……何ちゃんだっけ?」
「君は……誰だっけ?」

終始、顔と名前が一致できずグダグダになって終わった。

「おかしいなぁ……記憶力はいいはずなのに。

納得できずに掌を見てみると、
咲いてきた「きおく」の花はすっかり枯れていた。

「枯れのかよ!!
 また元の何も持っていない俺になっちまう!」

球根屋に向かって、また球根を追加しようとしたが
店に並んでいる球根はたった1つしかなかった。

「店長、ほかの球根は!?」

「才能を求める人は多いですからね。
 ほとんど買ってしまったんですよ。
 でも、この球根はあなたにぴったりですよ」

「わかった、買うよ!」

とにかく才能で武装しなければ、
俺なんて河原で拾える石くらいの価値しかない。

球根の花を咲かせて、一番いい状態に仕上げなければ。

最後の球根を1つ買って、空いた掌に植え込んだ。

「よーし、いい花を咲かせてくれよ!」

俺の願いが通じたのか、
球根はぐんぐん大きくなりあっという間に花を咲かせた。

そのかわりに、体から咲いていた花のすべては一気に枯れた。

「おい店長! どういうことだ!!
 この球根を入れたせいで、全部枯れちゃったじゃないか!」

「その球根は、最もエネルギーが必要なんです。
 それだけいい球根なんですよ」

「うそつけ! なんの才能も開花してないぞ!
 ただ他の才能を失っただけじゃないか!」

「だってそれは……」

店長ともめていると、店のドアが開いた。

「こんにちはー」

店に入ってきたのは、同年代の女性。
一目見ただけで体が勝手に動いてしまった。

「あ、あのっ、連絡先っ……交換しませんか?」

「え、ええ? い、いいですけど……」

普段の俺では声もかけられないのに、
思わぬ自分の行動力に自分が一番驚いた。

その後、お互いを知れば知るほど
彼女のことがどんどん好きになって結婚まで一直線。

俺は美人の妻と毎日顔を合わせられる幸せを手に入れた。

「店長、俺の買った球根ってなんだったんですか?」

結婚生活が落ち着いたころ、
俺はふたたび球根屋を訪れた。

「ああ、あれは『結根』ですよ。
 等身大の自分に戻して結婚させてくれるんです」

「なるほど、俺にぴったりだ」






男が店を出ると、入れ違いに男の妻がやってきた。

「店長さん、あの球根、まだありますか?」

「『美人根』ですね。はい、どうぞ」

妻は店の中で球根を後頭部に植え付けた。
髪を下せばもう球根の存在に気付かれない。

「ありがとう、また買いに来るわ」

「毎度ありがとうございました」

女は嬉しそうに店を出て行った。
今ので美人根はすべて売り切れてしまった。
仕入れの予定はもうない。

あの夫婦がどうなるのか店長は少し想像して、すぐ止めた。