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しょうきち
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novelistID. 58099
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あの人へのHappy Birthday

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あの人へのHappy Birthday



 宇宙の転移を行って暫く後の、六月下旬のこと。
 鋼の守護聖ゼフェルは聖殿のテラスへと足を運んでいた。
執務室から抜け出して来ているはずの、地の守護聖を探すために。
補佐官ロザリアが急ぎの案件を頼もうとしたが見つからず、困り果ててゼフェルのもとに来たのだ。
そして彼の予測通り、テラスの手すりに身を預けてぼんやりと外を眺めている彼を見つけた。

「……まーたここにいんのかよ、ルヴァ」
 恋仲だったアンジェリークが女王に即位して以来、ルヴァは時折行方がわからなくなることがあった。
普段の業務に一切手抜かりはないのだが、原因がわかりきっているだけに周囲も言い辛い。

 ルヴァの視線はいまだ遥か遠くを見つめていた。
そのまま身を乗り出してしまうのではないかと錯覚するほど、熱心に。
「おい、ルヴァッ!」
 思わず肩を掴むと、驚いた顔でルヴァが振り返った。
「……ああ、ゼフェル。どうしました、こんなところまで」
ここは静かでいいですよねえ、などと暢気なことを言ってはいるものの、その声に含まれた翳りに気付く。

「ロザリアが探してたぞ。急ぎの案件があるからすぐ来てくれってよ」
「あー、そうでしたか。それはすみませんでした、今行きます」
ゼフェルは振り向かずに立ち去っていく背に声をかけた。
「なあ……逢いに行ってやれよ。いちいちこんなトコ来て考え込むくらいなら」

あいつだって。
あいつだって寂しいに決まってんだろ、そう言葉をぶつけてやりたかった。

 ルヴァの足がふと立ち止まり、少しだけ振り返る。
「それはできません」
「なんでだよ」
「逢ってしまったら、あの人を手離せなくなるからです」
「……ケッ。またワケわかんねーこと言ってんな」
「あなたには分からなくて結構ですよ。これは二人で決めたことですから」
日頃の穏やかな物言いとは違う刺々しい言い回しに、ゼフェルは彼の胸中を慮った。
「意地張ってんじゃねーよ……ったく」
「意地……なんでしょうかね、これは……」
 僅かに苦笑するその声に安堵するゼフェル。
「なあ、ひとつ訊いてもいいか」
「なんでしょう?」
「あいつに逢いたいとは思ってんだよな?」
 一瞬の沈黙の後、静かに答えが届いた。
「……ええ」

 遠ざかる足音を聞きながら、ゼフェルの頭に一つの作戦が浮かぶ。
「そんな小せぇ意地、吹っ飛ばしてやろーじゃねぇか」

 もうすぐ七月がやってくる。
舞台としては上等だ。