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きんぎょ日和
きんぎょ日和
novelistID. 53646
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きっかけの先にある答えって分からないな~。

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ゆきのにお礼をしに行かなきゃいけないと思いつつも、まだまだ寒いので暖かくなるまでと思っていた。
何分、山奥は街よりも寒いだろうからとまだまだと伸ばしていた。

そんな中、数日前から馬の黒モジャが声をかけて来た。
どう説明したら良いだろうか…。
空間に丸いテレビ画面のような物が現れて、そこに話し掛けて来た誰かしらが映るという仕組み。
その画面いっぱいに黒モジャの顔面が現れた。
私はその顔面に、
“なになにっ?!”
とちょっと後ろにのけぞった。
そんな私を匂いたいのか、画面からはみ出し鼻のアップが近付き、見える範囲のほとんどが鼻になった。
そのまましばらく私は停止していたけど、その状況にも慣れて黒モジャに、
『何かようですか?!』
と聞いた。
黒モジャは何も言わず、私を匂う。
何か問題発生か…と頭を過る私は焦って、黒モジャに、
『何があった?!何っ?!ゆきのが何かあった?!』
と慌ててそう聞いた。
すると黒モジャは匂いながら、何にも動じず、
『別に何もない。ただ見てるだけ…。ただ、話し掛けただけ~。』
とのんびりな返事。
『なんやねん!!驚くでしょうが~っ!!』
と返す私。
しかしそんな私にもやっぱり動じず、ひたすら匂って鼻を付けて来て、鼻息がかかる。
『暇なの?!』
と聞いたら、
『別に…。』
と素っ気ない返事。
そのまま無視して日々を過ごしていた。
無視をしても画面いっぱいから何処にも行かない。
だからと言って用事はないし…。
普通は、ここまで画面いっぱいにならないなぁ~なんて思いながらふと、
『他の馬はどう?!』
と聞いたら、鼻を近付けるだけで無視。
この黒モジャが、
“ゆきのが好きじゃ~。”
と言ったのに、他の馬の事は何も話さない。
『ゆきのはどう?!』
と聞いたら、
『ゆきの~、好きじゃ~。』
と言った…。
そこだけ反応する。
どうして初めにそう言ったのか聞いたら、
『とっさに出た。』
との事だった。
分からん馬だ。
何かしらの思いや考えがあるのだろう。
そこは相手を尊重してそのまま放たっておいた。

ワイマールといつも間違えてしまう大きな馬、ワイキータ(本名)がいる。
その馬が話し掛けて来た事はなかったのに、画面に黒モジャがいなくなった時に、遠くの方にいるのが見えた。
何か話したいのかなぁ~とは思ったけど、ちょっと遠い…。
しばらくするとワイキータの顔が近くなった。
因みに横顔…。
話し掛けてみたものの、あまりなにもなさそうだった。
もうちょっと様子を…と思っていた。
またしばらくして、ワイキータにでもまたどうしたのか聞いてみようと思ったら、もう画面は黒モジャのちょーアップだった…。
やっぱりほとんど鼻。
目は何処にある…?!と探してはみたものの、目は画面から出たり入ったりしてチラチラ見えたり見えなかったりとした。
それくらい鼻推しをして来た。
そのおかげか誰とも話せなくなった…。
それなのに黒モジャが何を言いたいのかやっぱり分からなかった。

そんな事をしてる毎日の中、ひろみさんからのメールが届いた。
メールのやり取りをしていたら馬のご褒美の話になり、バナナを食べる馬もいるとの事。
そんな会話にゆきのが参加して来た。
私とゆきのの間にバナナが登場した。
上(神様)が気を利かせてくれたのだろう。
ゆきのがそれを臭うと、
『バナナ臭~い。バナナ嫌~い。』
と言った。
それをひろみさんに伝えると、
『ゆきのにあげた事ないなー。』
と一言。
ついでにヘイネット(餌袋)の話へとなり、ゆきのがヘイネットを引きちぎった事に怒られてしょんぼりしている。
その事をひろみさんへと伝えると、
『ゆきのを怒った記憶ないんだけどなぁ~。』
と言う。
もしかして調教師さんかも…?!と伝えたところ、
『そうかもしれませんね。』
と言う返事が来た。

そんなメールのやり取りをした数日後の日曜日、私は旦那さんとウォーキングがてら山梨に野菜を買いに…となった。
もちろん気にすれば、黒モジャは画面いっぱいにいた。
だからと言って、生活に支障を来たすという事もなく、空気のようにそこにただいるという事。
いつもの山道を通りながら、どうしてだろうか黒モジャのアピールが強い。
それを感じるままひろみさんへとメール。
ずっとメールを打っていたら、クネクネ山道の中気分が悪くなった。
旦那さんに、
『車止めるまで待ったら~。』
と言われ、一旦メールを停止…。
トイレ休憩のついでに野菜を買って、黒モジャの言い分をひろみさんへメール。
そしてまた出発。

それからしばらくして、ひろみさんからのメールが届いた。
『いま、ビックリ!!数日前くらいに、ゆきのがまたヘイネットに穴を開けたそうです…。調教師さんがため息を付いたと言ってます。バナナの件も、熟れた美味しそうなのをワイキータや他の馬たちが食べていて、ゆきのが「チョーダーーイ」と言ったのであげたら、ポンと投げてペッとしたらしいです。あまりにもタイムリーでしょ!!ゆきののテレパシー凄すぎ!!』
とあって、私も車の中で驚いた。
驚いてる私にゆきのが、
『ムリ。』
と面白くなさそうにそう言った。
それくらいバナナがダメだったらしい…。

それから旦那さんが向かうはずの公園に行き着かず…と言う事で、急きょ行き場所を変わった所にある神社へ…となった。
行くと駐車場が後十三分で閉まるという状況…。
なので、そこも諦めた。
そしてずっと山道の時から頭を過ぎっていた思いを旦那さんへと伝えた。
『ん~…、ひろみさんが今日ゆきのの所に行ってるんだけど、ここからどのくらい?!』
と聞いたら、
『一時間半くらい。』
との返答。
『今から行ってもいい?!もしひろみさんが来てもいいって言ったらだけど…。もう遅いし…。』
と旦那さんに聞いたら、
『いいよ~。』
との返事。
即、ひろみさんへ、
『今いる場所から1時間半くらいで行けそうなのですが、行ってもいいでしょうか?!長居したいわけではないのでちょっと馬を見たくなって…。暗くはなりますが…。』
とメール。
すぐに返事が来た。
『お待ちしてま~す。お気をつけて!!』
と。
なのでダッシュで向かった。
そして予定より二十分ほど早く着いた。
それでも夕方六時過ぎ。
自分たち用に買った味噌せんべいをおみやげにとした。

駐車場までひろみさんが迎えに来てくれた。
そのまま厩舎へと行ったら、調教師の方もいた。
入ってすぐにゆきのがいる。
ゆきのにふうちゃんのお礼をした。
不思議だったのは、ゆきのが動かずずっと目を見つめていた。
私もその目の奥を見つめて話し掛けた。
たくさん言葉を交わしたわけではないけど、ただそこにいることだけが答えなんだと思った。
今までもいつもそうだった。
離れていると会話はするけど、隣りにいるとそう言葉を交わさなくなる。
言葉を言おうとしても出て来なくなる。
心の中で会話が始まる。
やっぱりそうなった。
そうなると、それは安心へと繋がる。
動物はそれだけで十分なのかもしれないと思った。

そして数日前から話しかけていた黒モジャの所へ…。
何故かもうスタンバイしていた。
黒モジャが私に話しかけて来た時からの約束があった。
それは鼻を触るという事。