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青井サイベル
青井サイベル
novelistID. 59033
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それだけのこと

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朝日がやわらかく照らすと
清浄になる 清められる


光には鳥の声が含まれている
ピチピチ鳴る
朝の光は炭酸


カーテンが輝いて光をひきたて
部屋に引き入れ 部屋を満たし
胸の中のおぐらい隅まで満たす
時間は優雅に寝そべっている


ただそれだけ
ただそれだけのこと


呼吸を妨げる荒ぶる心も
いまは泣き疲れてベビーベッドですやすや眠る
痛いほど凍る孤独も
いまは人肌に戻りわたしと並んで日を受ける


きのうのこと
むかしのこと
かなしいこと
サ・ネ・フェ・リアン


優しい給仕がそれは礼儀正しくドアを開け
「何かご用意いたしますか?」
「いいえ。何にも。
そうだ、コーヒーを2杯、淹れてください。
そして、もしよろしければ、一緒に座って飲んでくださらない?」
「喜んで」


彼は若いようで年経たような顔をしていた
コーヒーは黒く、芳しく、その熱いこと
時間は止まり、空間は無音でありながら何かに満ち満ち、
わたしはここが現実でないことを知り、
彼が現実でないことを知っている


「ええ、僕は確かに現実の世界の者ではありません。
でも、僕もこの部屋もこの時間も実在します。
貴女が信じているから」
「・・・・・」
「『ピーターパン』にあるでしょう?「信じなければ」消えます。
でも貴女は信ぜずにはいられない。昔からそうでしたね?
貴女はお変わりになりませんね」
彼はにこにこしている
光が実によく似合う


「あなたはいつか、ラッフルズのサロンで幸運のコインをくれたあの給仕さん?」
彼は悪戯っぽく微笑う
「そうだったとしても、そうでなかったとしても」
「そうね。見て、日光って何億回も照らしてきたのに、そのたびに信じられないくらいきれい」
「貴女はやはり、お変わりないようです」


「そうでもないわ。360度変わっただけ。毎日の天気のように四季のように変わり続け、結果的には変わらない、
サ・ネ・フェ・リアン(それだけのこと)」


給仕は空いたカップとサーバーを銀の盆に載せ、
空いた手でわたしの手をそっと握った
「また、いつでも、好きなときにお呼びください。
憶えてますか?僕の名はワン。
では、どうぞ心穏やかな日々を」
わたしはできるだけ丁寧に頷いて、手を握り返した
ミスター・ワンは霧のように光に溶けていった 

 
残った人型の空間が、ちらちら光った
時間は動かない
胸はしっとりほどよい湿度に保たれ
日光はそれをいつまでも温め続けた


それだけのこと
作品名:それだけのこと 作家名:青井サイベル