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僕の好きな彼女

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『言葉に温度がない』、『質量が希薄に見える彼女』は、淡々とそう告げて、僕の方をじっと見た。
その視線はまるで僕を値踏んでいるようだった。
その言葉が持つ意味を、僕が本当に理解できているかどうか。
加えて、理解できているのなら、それをどう捉え動くのか。
とどめといわんばかりに、微笑む彼女の綺麗な顔が、薄く透けるように溶け、背後にあるコンクリート壁をうっすらと僕の目に見せた。

ああ、と僕は考える。
本物だ。
彼女は本物だ。
本物の――僕の知る言葉で言うのならば――霊的存在、端的に言うところの、彼女は『幽霊』に他ならなかった。

だけど、僕の気持ちは逆に落ち着いていた。
正しくは驚きすぎたために、むしろ『取り乱す余地がなかった』といった方が良かったのかも知れない。

だから

「それで、」

と僕は彼女に問うた。
「――君は僕をここに導いて、何がしたいの?」
僕のその問いかけに、彼女が目を細くした。
その目つきは不満を湛えているようにも見えたが、同時に『さらに新しい何かの値踏み』を僕に向けているようにも感じられた。
しかしその目つきが消えた。
いや、彼女の目つきが『まるで違う意味合いを持つ光に変わった』というのが正しいのだろうか。

「初対面だもんね。こんなことを言えた義理じゃないのは分かってる。でも、他の人じゃ駄目。私は『あなた』にお願いがあるの」

彼女のささやかな声がそう囁いた。
そして、固い意思をそのまま表すような、僕を真っ直ぐ射貫くような視線を向けながら、


「私を殺した人間を探すのを――手伝ってくれない?」


一語ずつ、
僕との間に広がる空間に刻み込むかのようにして、
彼女は、そう呟いた。

作品名:僕の好きな彼女 作家名:匿川 名