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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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5時間おきの命

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友達が持ってきたのは時給が高いバイトだった。

「ほら、言っただろ?
 これだけの時給なら会社に勤めるよりも
 ずっと楽に金がかせげるぞ!」

「本当だな! これはいい!」

バイトの内容は薬の実験隊でもなければ
なにか危ない荷物を運ぶことでもない。

ただ、毎日自分のことを報告するだけだった。


【友達と会話している】

短くまとめた現状報告を本部に送信する。

「毎回5時間おきに
 送るだけでいいなんて楽なもんだよなー」

「あっ、いっけね。
 今日の分の報告忘れてた」

友達は慌てて報告しようとスマホを出した。

「あーー5時間過ぎてたわ。
 まあいっか、今から報こ……」

友達はスマホを持ちながら倒れた。
まるで操り人形の糸でも切れるように。

「お、おい……!?
 まさか1回でも報告を逃したら死んじゃうのか……」

こんな簡単なことなのに
高い時給である理由がわかった。

このバイトは命がけだったんだ。

慌てて本部に連絡をする。

「あの! バイト止めたいんです!
 命がけなんて知らなかったんですよ!」

『契約書にはちゃんと明記されていますし
 あなたもそれに同意していますよね?』

長々書かれている契約書なんて読むかよ普通。

「とにかく! もう辞めさせてください!」

『弊社では人々のデータを集めている仕事。
 そう簡単にやめられては困ります。
 最低でも1ヶ月は働いてもらわないと』

「いっ、1ヶ月!?」

けれど、俺も契約書に同意した手前、しょうがない部分もある。
仕方なく1ヶ月のバイト生活が始まった。


【食事をとっています】

5時間おきに現状を報告するだけ。
ただし、1度でも抜けがあれば死ぬ。

寝ている時も5時間おきに報告しなければならない。

「こんな生活……頭がおかしくなりそうだっ」

そこで自動的に送信してくれるプログラムを作った。
毎回5時間おきに、なんらかの報告を送ってくれる。

「これならうっかり忘れることもないな!」

プログラムを動かしている限り、俺は自由だ。
さらには高い時給で遊び続けられる。

その日も遊びまくって豪遊した帰りだった。
家の前の電柱で何か工事をしていた。

「あ、ここにお住まいの方ですか?」

「はい、そうですけど」

「もう治りましたが、
 さっきまで電線が故障していて
 電気が使えなくなっていたんですよ」

「ああそうですか。ありがとうございま……」

電気が使えない!?
家で動かしていたプログラムは!?

家に駆けこんでプログラムを見てみると、
停電していた時間はやっぱり送信していなかった。

「や、やばい!!」


【帰宅なう】

すぐに送信した。

俺が死んでないことを考えると、
ぎりぎり5時間以内に送ることができた。

「やっぱり自分しかもう信じられない……!」

機械が故障したら、なんの前触れもなく俺は死ぬ。
それだけはごめんだ。



【ひきこもりなう。呼吸だけしている】
【ひきこもりなう。呼吸だけしている】
【ひきこもりなう。呼吸だけしている】
【ひきこもりなう。呼吸だけしている】
【ひきこもりなう。呼吸だけしている】
  ・
  ・
  ・

それから俺は同じ文面しか送らなくなった。

外に出ればスマホが壊れるかもしれない。
もうここ数週間は風呂も入らず、ろくに眠らずに
5時間おきにやってくる死の恐怖に耐え続けていた。

「なんで……なんでこんなバイトやったんだろう……」

楽でお金をかせげる。
でも、こんなことになるなんて……。


【ひきこもりなう。後悔をしている】

1ヶ月が過ぎ、俺はバイトを辞めることができた。
でも、解放感などはなく体に染みついた恐怖は
バイトが終わってもまだ後をひきずっていた。

「夜寝ていると、5時間おきに目が覚めたり……。
 報告しないと死んじゃう気がして
 バイトを辞めた今でも報告してしまっているんです……」


【病院なう。精神科医の検診を受けている】


「PTSDみたいなものでしょうね。
 一度染みついた恐怖はなかなか抜けません。
 ここで一緒に頑張って克服しましょう」

結局、かせいだ金の多くは治療に使われた。
半年以上の治療のおかげで俺の恐怖もすっかりなくなった。

「先生、ありがとうございます!」
「いいえ、治ってよかったです」






面接会場に通されると、面接官が口を開いた。

「どうして弊社を応募したんですか?」

「はい! 御社の事業に興味があり、企業理念も……」

高い給料で、楽な仕事そうだから。
もちろん、本当の理由は明かさない。

病気が完治した俺はなんなく内定をゲットした。

受かった企業は会社にくる必要もないので、
家でダラダラしながら過ごすことができる。最高だ。

しかも、噂じゃ仕事はめちゃくちゃ楽な仕事らしいし。


「それじゃ、仕事の内容を説明します」
「よろしくお願いします」

「特に難しいことは必要ありません。
 被験者から毎日5時間おきに報告が上がってくるので
 それを読んだ感想を本部の精神病院に送ってください」

「え……それって……」

どこかで聞いたことのある仕事内容。
俺の体が忘れていたあの恐怖を思い出した。

「なお、情報漏えい防止のため
 一度でもコメントを逃すとあなたは死にます」

「や、辞めます! この仕事辞めますぅ!」


「若い人はすぐに辞めたがりますね。
 ダメですよ。最低でも1年は勤めてもらわないと。
 契約書にもそう書いているでしょう?」



新人が帰ったころ、精神病院の医師がやってきた。

「いやぁ、いつもありがとうございます。
 みなさんのおかげでずっと黒字続きですよ。
 細かい報告で次の患者がいつ来るかわかりますしね」
作品名:5時間おきの命 作家名:かなりえずき