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荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
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あの世で お仕事 (5-1)

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鬼の棲み家の下、七合目付近で、勝忠と共にやまちゅうの侵入を待っていた肝蔵は、ダルタニャンニャンと、一つ手前の峰まで後帰りした。その方が、崖を下りるやまちゅうを確認するのが、容易であると判断したからである。それに、一旦、やまちゅうからの合図が有れば、それをいち早く勝忠に知らせる事も出来る。
彼は、出来るだけ派手に合図をしようと思っていた。そうする事で、鬼達の注意を引き付け、崖を下るやまちゅうの危険を、少しでも減らそうと考えたのである。
勘蔵とダルタニャンニャンが、手前の峰に移動してから一刻ほど過ぎた頃、鬼の棲み家の遥か上方の岩壁を下り始めたやまちゅうの姿が、米粒程の大きさではあるが、見て取れた。彼は、崖の中ほどまで、意外に早く下りた。しかし、其処からは、岩壁が、建物の屋根を覆う様に張り出している。米粒大のやまちゅうは、ゆっくりと岩壁を右方向に移動し始めている。どうやら、オーバーハング状の岩肌を下るルートを見付けた様である。肝蔵は、
「あそこから下る道筋を見付けた様じゃが、まだ残りが三十間近くも在る。あの状態で、見回りの鬼どもに見付かれば、奴の命は、無いも同然じゃ。そろそろ、こちらで必要以上に騒ぎ立てて、鬼どもの注意を引き付けてやらねば・・・」
と、誰に言うとなく呟いた時、後ろでいきなり、
「ウワッ!」
という短い叫び声がした。振り向けば、前にばかりに気を奪われて、迂闊であった。背後から見廻りの鬼が近付き、ダルタニャンニャンの腕を掴み、後ろにねじ上げている。
「此処で何をしている! 不穏な動きをしている人間どもめ! 叩き殺してくれるわ!」
と、鬼は、ダルタニャンニャンを捕まえたまま怒鳴り声を上げた。まごまごしていて向こうの峰のやまちゅうに気付かれでもしたら一大事。肝蔵は、いきなり懐から短剣を取り出し、ダルタニャンニャンを捉えている鬼の腕めがけて投げた。
「ぎゃっ!」
と、鬼が声を上げて、一瞬ひるんだその隙に、ダルタニャンニャンは、鬼の手を振り解いた。そして、サーベルを腰から抜き、目にも止まらぬ速さで、鬼の目めがけて突き出した。再び、
「ぎゃっ!」
と悲鳴にも似た鬼の声。さすがは三銃士の主人公として、長い年月、語り継がれて来た剣士だけの事はある。一旦、戦いの場に臨めば、動きに寸分の澱みも無い。彼は、すかさず鬼の脇に廻り込み、これまた肝蔵が見惚れて動けぬほどの早さで、右足、そして左足へと、サーベルを繰り出す。相手の急所を突く、その正確さは、類を見ない。鬼は、耐えかねて地面に倒れた。そして、倒れた鬼に留めを刺そうと、二~三歩足を進めた。が、ダルタニャンニャン、いきなり体を反転させて、
「カンゾウ! モウ、ヒトツ、オニ ガ、イタ! イマ、ニゲタ。ワタシ、ヤッツケテ、クル。」
と、肝蔵に言い残し、あっという間に岩を飛び移りながら、峰の下の方へと消えて行った。肝蔵は、
「おうっ!」
と返事を返して、身動き出来なくなった鬼の留めを刺した。
肝蔵は、もう一匹の鬼を追って行ったダルタニャンニャンも気になったが、それにも増して、これから難しい岩肌を下るやまちゅうが気になった。
(先程の太刀捌きを見る限り、ダルは、大丈夫じゃ。それよりも、一刻も早く勝忠様に派手な合図を送り、岩場を下るやまちゅうを援護しよう。)
と、腰袋から爆竹を数本取り出し、その全てを同時に炸裂させた。
案の定、鬼の棲み家の方向から、声ならぬ声、音ならぬ音が、鈍く聞こえて来た。勿論、勘蔵よりも鬼の棲み家に近い勝忠の軍勢も、一斉に時の声を上げ、鉦鼓などを敲き鳴らす。
勘蔵は、勝忠と共に、何度も鬼の棲み家の近くまで来ている。大体の地形は、頭に叩き込んで居るし、見廻りの鬼どもの動きも把握している。
「よし! これで、鬼どもは、やまちゅうに気付かぬ筈じゃ。後は、出来るだけ派手に逃げ回り、やまちゅうが、鬼の館に火を点けるのを待つだけじゃ。」
と、勘蔵は、一人呟いて、峰のあちらこちらを飛び回りながら、手持ちの爆竹を炸裂させた。しかし、油断は禁物。肝蔵は、先程よりも更に用心しながら移動する事も忘れなかった。途中、血相を変えて走り回る鬼どもを、二度ほどやり過ごした。
勝忠の手勢も、予ての打ち合わせ通り、館から出て来た鬼どもを適当にあしらいながら、逃げ回っている。
「これで、第一段階は、上々の首尾じゃ。さて、次なる段取りに移るとしようか・・」
と、勘蔵は、灌木の茂みに消えた。
それは、この日より半年程前の事である。
勘蔵は、勝忠と共に、この峰の探索をした。いずれは、鬼達と一戦を交え、雌雄を決しなければならぬと、その日の為に、峰の地形を絵図に残すのが、目的であった。
その時、勝忠は、大鬼を相手に戦うとすれば、尋常の手段では上手く事が運ばないと、峰の周り数か所に、鬼をおびき出し、落とし込む為の大きな落とし穴を作ったのである。肝蔵は、その穴に、鬼達を誘き出すべく、一人鬼の棲み家に近付いて行った。その途中、鬼どもをあしらいながら、面白そうに逃げ回っている勝忠の手勢に出逢った。
「おう、勘蔵! お前、向こうの峰で、かなり派手に爆竹を鳴らしていたな。」
という手勢の一人に、勘蔵は、
「な~に、ほんの座興じゃ。やまちゅうも鬼の館の屋根に辿り着く刻限であろうから、そろそろ、反撃の狼煙代わりに、例の落とし穴を使うて見ようかと思うてな・・。丁度良い。お前達も、わしと共に、鬼どもを穴に誘い込もうぞ!」
と言った。それを聞いた手勢達は、
「それは、名案じゃ。わし等も、逃げ回ってばかりでは面白うないと思うて居ったところじゃ。」
と、一も二も無く賛同した。
鬼の棲み家近くまで、身を隠しながら進んだ勘蔵、やおら立ち上がり、
「おうい! 馬鹿鬼どもっ! 本多勝忠が家臣、帆阿倉肝蔵じゃっ! 見廻りが聞いて呆れるぞ! 此処まですいすい来てしもうたわ。する事が無うて、体が鈍って堪らん。誰かわしの相手をせぬか! それとも、この小さなわし一人が怖くて何も出来ぬのか!」
と、小柄な体に似合わぬ、大声を張り上げた。
棲み家の中から、肝蔵を見付けた鬼が、四~五匹どっと飛び出した。肝蔵、鬼どもを引き付けるだけ引き付けて、三十六方逃げるが勝ちと、身軽にヒョイヒョイと岩を飛び移り、落とし穴の方へと誘い込む。鬼達は、
「待たんか! ちび!」 とか、
「地獄へ投げる前に、一度握り潰してやる!」
などと、口々に叫びながら、後を追って来る。
その鬼ごっこの輪に、勝忠の手勢も加わる。
「おおい、バカ鬼! こっちじゃ、こっちじゃ! 身体が大きいだけで、その動きは、からっきしじゃのう!」
などと、口々に囃し立てる。
それを聞いた鬼達は、青鬼まで真っ赤になって、人間達を追い回す・・。
肝蔵は、一つの大きな岩陰で姿を消した。鬼達は、一瞬彼を見失い、立ち止まった。その間に、彼は、鬼達の背後に廻り、岩陰から、
「大きいばかりが能ではないぞっ! こっちじゃ! バカ鬼ども!」
と、声をかけた。鬼達は、振り向き、声のした方向へ駆けて行った。そして、一つの大きな岩で仕切られた角を廻った途端、三匹が、落とし穴に落ちた。