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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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人間カテゴリー・エラー

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●あなたは男の人ですか?
 はい

●だったら、人付き合いよりも機械が好きですね
 はい

●機械が好きなら、オタクですね
 はい

●オタクなら友達は少ないですね
 はい

●友達が少ないなら童貞ですね
 はい


『分類が終わりました。
 あなたのカテゴリーは『A-118』です』

世界に導入された"カテゴリー分けロボ"。
完璧な精密性を誇るそのロボにより、
俺の人間としてのカテゴリーが決まった。

コンビニに行っても、カテゴリーによって品ぞろえが変化する。。

「いらっしゃいませー」

店には俺の大好きなオタクグッズが並び、
お気に入りのアニメはもちろん、趣味に沿ったものが陳列される。

「おお、探していたお菓子!
 今までネットでしか手に入らなかったのに!」

オマケ付きのお菓子を手に取り、
店を見回すがもう一つの欲しいものがない。

そこで、メイド姿の店員に声をかけることに。

「あの、すみません。
 ホームパーティ用の風船ありませんか?」

「ありませんよ。どうして使うんですか?」

「友達のサプライズパーティに使いたくって」

「A-118カテゴリーの人はパーティなんかしません。
 ガラにもないことはやめて、
 A-118らしく、ネット飲み会くらいがおすすめです。
 ああ、ネット飲み会用のマイクならありますよ?」

「そ、そうですか……」

結局、風船は手に入らなかった。
ネットでもA-118用の物しか買えなくなったためだ。

俺の趣味に即したものは以前より手に入りやすくなったが……。

「なんか、違うよなぁ」

ぼやいていると、昔の友達からメールが届いた。


『久しぶりに飲まない?』


数日後、旧友との飲み会に参加した。
彼はカテゴリー:B-008。

「私はビールをお願いします」

「あ、俺も同じもので」

「すみません、お客様。
 A-118カテゴリーの方はお酒を飲みません。
 ですから、ビールは注文できないんです」

「あ、そうですか。じゃあコーラで」
「かしこまりました」

A-118カテゴリーは俗に『オタクカテゴリー』とされている。
友達の少ない人が入るカテなので、
そもそも酒を飲みかわす機会も少ない。

それだけに断られるのもなんだか納得だった。

「でも、驚いたよ。急に飲みに誘うなんて。
 もうかれこれ1年は連絡とってなかっただろ?」

「そうね。こっちもいろいろ忙しかったから」

久しぶりに旧友との友情を温めていた時間は、
とても貴重ですごく楽しかった。

だけど……。

「私ね、最近ダンスにはまってるんだ」
「こないだ友達と行ったフレンチがおいしくって」
「大好きなバンドのフェスが大盛り上がりだったの!」

「そっかぁ、楽しそうだなぁ」

話を聞けば聞くほど、住む世界の違いを突き付けられた。

翌日、興味をそそられた俺はダンス教室の戸を叩いた。

「A-118カテゴリーの人がダンス?
 そのカテゴリーはゲームとかサブカル系でしょ?
 A-118は入会できません」

あっさり突き返された。
負けじと、ちょっと高めのレストランにも行ってみた。

「お客様、大変申し訳ございません。
 A-118のお客様の召し上がるものはインスタントばかり。
 当店とは合わないのでお断りいたします」

「確かにインスタントばかりだけども!」

また断られた。
いやいや、バンドのフェスには参加できるだろう。
そう思っていたが……。

『カテゴリーエラー。
 A-118の人はフェスなんか参加しません。
 カテゴリーに合わないため、チケット購入できません』

「ちくしょーー!」

何にもできなかった。
ゲームの祭典のチケットはいくらでも買い放題なのに。

「カテゴリーができて便利にはなったけど……。
 俺という人間そのものの幅が狭くなっている気がするなぁ……」

テレビをつけてもチャンネルはA-118専用。
無理に回そうとすれば『カテゴリーエラー』。

漫画やアニメやメイドの情報はいくらでも入るけど、
友達が話していたことは何一つできやしない。

無理にやろうとしても

――カテゴリーエラー。ガラじゃないのでやめましょう。

と、警告が出てはじき返される。

「きっと俺は死ぬまで自分の好きなものだけに囲まれて
 自分の趣味に合うものしか見ないで死んでいくんだなぁ……

 いやいやいやいや!! それだけは嫌だ!」

自分の老後を想像して寒気がした。
このまま何一つ新しい自分を見つけられずに死ぬなんて。

「カテゴリーエラーがなんだ!
 だったら、A-118カテゴリーそのものを
 どのカテゴリーよりも幅広いものにしてやる!!」

ダンス教室には入れなくても、ダンスはできる。
レストランに行けなくても、料理はできる。
フェスに行けなくても、音楽はできる。

そうして、俺は自分の趣味を
これまでのオタク趣味から拡張することにした。

慣れないダンスをネットにアップし
見よう見まねでフレンチ料理を作ったり
はじめて楽器に触れておぼつかない演奏をしまくった。


それから、20年がたった。


―― 3


―― 2


―― 1


『発射』

爆炎ととともにシャトルは空へと打ちあがる。
体に地球の重力がかかって、イスに吸い付けられる。

「しかし、A-118カテゴリーの人間が
 まさか宇宙飛行士になれるなんて、今でも驚きだよ」

「ああ、自分でもびっくりするくらいさ」

俺はA-118カテゴリー特有のマニア気質を活かし、
他の趣味を始めるうちに気が付けば宇宙飛行士になっていた。

「カテゴリーの分類は変えられなくても、
 枠の中で、自分を変えることはできるからな」

「HAHAHA。本当にすごいガッツだよ。
 今じゃA-118カテゴリーは最も自由なカテゴリーになったしな」

「ああ、俺も頑張ったかいがあるよ」

俺が始めたガラにもない活動が
A-118カテゴリーの枠を広げてくれた。

前はマニア・オタクの集まりだったA-118も、
今じゃ宇宙飛行士からアイドルまでいるくらいだから。

「きっと、らしくないことをするのが
 自分を成長させてくれるヒントが隠されているのかもね」

「さあ雑談はここまでだ。
 そろそろ星が見えてくるぞ」

窓の外には到着予定の星がみるみる大きくなってくる。
今日、人類は地球という枠を越えるのだ。

「さあ、上陸だ! 人類の成長のために!」




"カテゴリーエラー。
 地球人は殺し合いをする野蛮人なので
 星に入ることはできません"


シャトルは思いっきり弾き返された。