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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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車温泉に入らなくちゃ!

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トゥルルル……。

「……あれ?」

トゥルルル……。
トゥルルル……。

「あれ? エンジンかからないぞ?」

何度車のカギをひねっても
車のエンジンは空咳のような音ばかり出してくる。

「そういえば、最近ワイパーの動きも悪いし
 トランクの開き方もなんだか調子が悪そうだ」

車検では問題なかったとはいえ
今ここで起きていることを解明せずにはいられない。

車ドクターを呼んで診てもらうことにした。

「ははぁ、なるほどなるほど」

「先生、どうですか?
 いくらメンテナンスしても調子が悪いんです。
 この車、どうすれば治せますか?」

「車温泉に入りなさい」

車ドクターの言いつけを守って、
近所の車温泉に行ってみることにした。

「車を温泉に沈めるって……大丈夫なんですか?」

「ええ、大丈夫ですよ。安心してください」

手際よくレッカー車に引かれてきた俺の愛車。
どぶん、と温泉の中に滑り込んでいった。

すると、ワイパーをせわしなく動かし
車のランプを何度もチカチカ点滅させる。

「ほら、見てください。車が喜んでいますよ」

「ああ、本当ですね!
 おっかしいな、洗車はよくやっていたのに」

「洗車なんて、人間でいうシャワーみたいなものです。
 しっかり肩まで湯につからないと落ちない疲れもあるんですよ」

「なるほど」

車温泉を経てから、すっかり車は元気になった。
エンジンのかかりもスムーズだし、加速もいい感じ。
すっかり愛車との時間が長くなった。


トゥルルル……。

「……あれ? またか?」

再び車の調子が悪くなっていった。
すぐに浮かんだのは車温泉だが、
こう何度も車温泉に行って帰ってを繰り返しては効率が悪い。

1回入ればしばらく入らなくて済むような場所に行かなくては。

「ふむふむ、箱根にいいところがあるんだな」

さっそく箱根にある有名な車温泉に向かった。
有名どころとあって何台もの車が温泉に浸かっていた。

「これは期待できそうだ!」

愛車を沈めてみると、ボンネットがばんと開いた。
あまりの気持ちよさにはしゃいでいるみたいだ。

「おお、よかった! さすが名湯!」

その温泉の帰りは、これまでにない最高の走りを見せてくれた。



が、それも長くは続かない。

トゥルルル……。

「……くそっ」

車の調子がまた悪くなってしまった。
せっかくいい温泉に行ったというのに、
調子が悪くなるスパンがどんどん短くなっていってる。

これはまずいぞ。
まだローンもあるっていうのに、
このままずるずると悪くなっていってはたまらない。

「もっと、もっといい温泉に浸からなくては!」

今度はさらに視野を広げて、
日本各地の温泉をくまなく調べて最高のものを探した。

「あった!!」

見つけた伝説の秘湯へとさっそく向かう。

その秘湯は限られた時間に、限られた場所でしか現れず
しかもここまで来るのに悪路を通らなければいけない。

そんな環境でも行く人が後を絶たない伝説の秘湯。

「さあ、これで10年分は温泉行かなくてすむぞ」

車温泉に愛車を浸からせると、
車内のイスが一気にリクライニングした。

「これはすごい!
 まさに体の中から、心の芯からリラックスしている!」

その秘湯の帰り、車の調子といったら完璧すぎた。
ハンドルから手を放しても勝手に走ってくれるほどだった。


トゥルルル……。

「…………またか」

でも、すぐに調子は悪くなってしまった。
もうあれ以上の名湯なんて国内外含めてありはしない。

いっそ買い替えるかどうかの究極の二択を前に、
とりあえず車ドクターに診てもらうことにした。

「ふむふむ、なるほどなるほど」

「先生、いくら温泉に浸かっても疲れが取れないんです!
 それどころか、いい温泉に入るほどすぐに調子が悪くなって!
 いったい何が原因なんですか!?」



「車の走らせすぎじゃな」

名湯に行って戻ってくるまでの走行距離が
すべての原因だと車ドクターは丁寧に教えてくれた。