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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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ポジティブ病の副作用

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「ポジティブ中毒ですね」

「ポジ……えっ?」

医者の言葉に耳を疑った。
なにせ聞き覚えのない言葉だったから。

「どんな言葉でもポジティブに聞こえてしまうんですよ。
 それがあなたの今の病気です。
 現代社会はポジティブなものを求めますから」

「はぁ……」

そういわれると、否定的なものは嫌ってきた。
自分とそりが合わない人には話しかけないし
常に耳触りの良いことばかり言って人間関係を保ってきた。

「お薬出しておきますから、これを飲めば大丈夫ですよ。
 もう跡形もなく、木っ端みじんに治ります」

「そうですか! ありがとうございます!」

医者は俺の反応に顔をしかませた。
そして、今度は何も言わずにパソコンをたたいた。

"薬でも根治することはできません。
 と、さっき言いました。
 あなたはどう聞こえていたんですか?"

「薬を飲めば治るって……」

"あなたの病気は深刻です。
 耳から入ることのほとんどがいいように聞こえます。
 現実から目を背けることだけはしないように"

医者から薬を処方されて病院を出た。
あらためて自分の病気の深刻さを突き付けられた。

「あっ、すみません」

なんて考えていると、柄の悪そうな人にぶつかってしまう。

「全然かまいませんよぉ!!
 こっちがよそ見していたのが悪いんです!!」

青筋立ててブチ切れた顔のまま、
俺が聞こえてくるのはとても優しい言葉。

前歯がへし折られるほどボコボコにされると、
処方された薬を一気に飲んだ。

「このままじゃ危険だ。
 なにが危険って……危険かどうかわからないくらい危険だ」

さっきの人も「なんだコラァ!!」と怒鳴っていたのだろうが
俺の耳には優し気な言葉しか届かなかった。

それだけに、相手がどれだけ怒っているのか判別できない。
ともすれば、相手の地雷を思い切り踏んでしまうことも……。



治療から1週間たった。


「すっかり良くなりましたね。
 もう少し治療を進めれば普通に戻れますよ」

「本当なんですね? 良くなってるんですね?」

「ええ、私の言葉もポジティブ化されてないようです」

前のように、聞いた言葉と実際の言葉の食い違いが起きることはなく奈多。
薬さまさまだ、ぐっじょぶ。

「それじゃ、俺はこれで……」

「あ、ちょっと待ってください。
 実はまだ用件があるんです。
 前に病気の進行度をチェックするために検査したところ……」

医者はレントゲンをいくつも見せた。

「けっこーやばい病気がいくつも見つかりました」

「な、なんで持って早くいってくれなかったんですか!」

「言ったところで、病気でいいように変換されるから
 正しく伝わらないじゃないですか」

医者の言うことはもっともで、反論の余地はない。
でも、それを今言わなくても……。

楽しみにしていた仕事帰りのビールも。
大好きだった惰眠も、趣味の喫煙もダメ。

娯楽を根こそぎ持っていかれたまま生きてるなんて
死んでないだけじゃないか。

「いいですか! あなたの病気はやばいんですから
 毎日健康的な日々を送らないと死にますよ!」

医者は口をすっぱくして、煩わしいほど忠告する。
俺がなにか逆らおうものなら烈火のごとく怒り出す。



「もう放っておいてくれよ! 俺の人生なんだ!!」


ついに耐えきれなくなった。
俺はあえて、薬を飲むのを止めた。

ポジティブ病が再び進行してくると、病院へ行くのも怖くなくなった。

「やばい病気ですか? ああ、大丈夫ですよ。
 このままの生活を続けていれば自然と治ります」

「ですよねーー」

ポジティブ病バンザイ。
こんな使い方があったなんて。

ごちゃごちゃ俺の生き方を邪魔することしかできない雑音なら、
いっそ嘘で塗り固めた生ぬるい真実(笑)のがいい。

俺は持っていたポジティブ病の薬すべてを廃棄した。


異変に気付いたのは、
ポジティブ薬の服用をやめてから1か月後のこと。

ふと、足元に落ちていたチラシに驚いた。

>コンビニアルバイト 時給4000~

「高っ!! うそだろ!?」

チラシから目を移すと、町は美男美女であふれている。
誰もがお互いに優しい言葉をかけあって笑顔が満ちている。

でも違和感を感じずにはいられない。

俺の心が"そんなわけない"と警笛を鳴らしまくっている。

「まさか……病気が進行しすぎて、
 音だけじゃなくて見ている景色もポジティブになってるのか?」

新聞を見ても都合のいいことばかり。
ニュースを見てもいいことばかり。
何もかもがいいことだけのポジティブ世界。

「や、やばい! これはやばいぞ!!」

怖くなった俺はまっすぐ病院へと向かった。
医者を呼びつけるなり、まくしたてるように伝えた。


「ポジティブ病が進行しすぎて大変なんです!
 見ている風景も、聞こえる音も全部都合のいいようになって!
 先生、早く薬をください! もうこんな世界嫌なんです!」

先生はにこりと笑って答えた。

「それはよかったですね」

「え?」

「病状はもうかなりいいんでしょう?
 薬もいらないくらいに改善されたんですよね?」

まさか……。
病気が進行して、俺が受け取る情報どころか
俺がしゃべる言葉もポジティブになってしまってる……?

「せ、先生! 助けてください!!
 このままじゃ俺は誰にも真実を伝えられなくなる!!」

「そんなに病気は治ったんですか、よかったです。
 ポジティブ病の治療薬は副作用が大きいですからね」

ダメだ。
医者には俺が「完治したぜありがとう!」としか言ってないように聞こえている。

もう当てにできない。
俺は立ち上がって病院を駆けずり回る。

「あった!!」

見覚えのあるラベルに、飲み覚えのある形状。
まさしくポジティブ病の薬。

「な、なにをしてるんですか!!」

医者の制止を振り切り、薬を一気飲みした。


 ・
 ・
 ・

「いやぁ、驚きましたよ。あのときは」

「俺もあの時は必死でしたから。
 病気の進行を一刻も早く止めたくって」

俺の「勝手に薬飲んじゃった事件」から数週間たった。
今では見える風景も聞こえる音も正常そのもの。

聞きたくないことも聞かされるし、
見たくないものも見せられたりはする。
でも、これが真実だという安心感も同時にあった。

「先生、実はまたポジティブ病が……」

「また薬ですか? 変ですねぇ。
 これだけ飲めば、そろそろ治ってもいいころなのに」

「俺のポジティブ病は深刻なものですから」

「……わかりました。お薬出しておきます。
 くれぐれも飲みすぎには気を付けてくださいね。
 ポジティブ病を治す薬とはいっても、
 あくまで打ち消し合うだけで毒は毒なんです」

「もちろんわかってます」

俺は医者から薬を受け取ると、すぐに診察室を出た。

処方された薬をたくさん飲む。
とっくにポジティブ病なんて治っているけれど。

俺を見つけたナースは軽く挨拶をした。

「こんにちは」

でも、薬の副作用が効きまくっている俺には別に聞こえた。


「この醜い豚野郎! この私に挨拶もできないの?