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レイドリフト・ドラゴンメイド 第10話 カーリのパラドックス

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 おびえている方がチェ連の医師。怯えていない方が、自衛官の医師、医官だ。

「ランナフォンや地球人たちを怖がる必要はありません。ですが私は、あなた方が無茶な行動をしたら、お停めするように言われております」

(この、どこまでも礼儀正しい話し方。
 そして、この大量に居るランナフォン……)
「久 編美? 君は久 編美なのか? 」
 シエロは、リサイタルで真脇 達美が懐かしそうに話したアイドル仲間の一人を思い出した。
「ご存知でしたか」
 と女の声は答えた。
「あなた達は、達美たちに生かされたのですよ」
 達美? 達美‥…。女の声が示した名前が、まだぼんやりとした頭に漂う。
 それがやがて、はっきりと思い出された。




 チェルピェーニェ共和国連邦、マトリックス海南エリアの方面隊司令部、その中枢。
 水蒸気に覆われた白い視界。
 響く銃声と悲鳴。
 それを覆い尽くすような、レーザージェットの騒音。
 肉を打つ打撃音。
 シエロはその音を聞きながら、いつまでも装填係がロケット弾を持ってこないことに苛立っていた。
 まさか、すでに……。その恐怖が、最も安直な行動を取らせた。
 およそ6キロはあるロケット砲の発射機を、振り回したのだ。
 その重さに耐えかね、すぐに倒れそうになる。
 しかも足の下には砲塔の破片や小銃の薬莢などが転がっている。
 転ぶのを救ってくれたのは、皮肉にも発射機を受け止め、奪い去った者だった。
 6キロほどの物体を掘りの水に放り込む音が聞こえた。
 それでもエピコスは諦めず、腰からピストルを抜こうとした。
 直後、霧を突き抜けて視界に入ってものがあった。
 焼けただれ、ちぎれた紺色の袖。
 そこからのぞくのは、白く、ほんのりピンク色の女性的な肘だった。
 その腕は折り曲げられ、手のある方向からは青色い光が轟音とともに輝いている。
 光に加速された肘が迫る。
 その向こうに、にやりと笑う口元が見えた。
 そして響く、真脇 達美の声。
「ロケットエルボー!! 」




 壁にかかった時計を見てみる。
 もう3時間は寝ていたことになる。
(そういえば、地球の時計と構造も数字もそっくりだと騒いでいた奴がいたな)
 右ほおをさわってみる。
 大きな絆創膏の感触がした。
 ロケットエルボーで打たれた所だ。
「達美に生かされた? どういう事だ」
 シエロは周囲のランナフォンを見回しながら質問した。
「猫のお土産、と言う習性をご存知ですか? 」
 姿のない女の声に、シエロは首を横に振った。
「いや、ペットなど飼ったことがない」
 女の声には、恨みや怒りと言った響はなかった。
「そうでしたか。猫にとっては、飼い主である人間は親のようでもあり子供のようでもある、不器用で大きな猫と言う感じに見えているそうです。そこで猫は、人間に狩りの仕方を教えるために、自分が捕まえた獲物を生きたまま、持ってくるそうです」
 シエロは、達美が魔術学園の生徒ではなく、教材だという話を思い出した。
「我々は、狩りを教えるための、お土産だったというのか」
 そう考えれば、合点が行く。
 そもそも、彼ら魔術学園生徒会が、この星で最初に行った作戦だってそうだった。
 だが、今後を考えると、身震いがしそうだった。
 達美がいないところで地球人達は、どのような狩りをするのか。

 シエロの前に、ランナフォンたちが集まってきた。
「もちろん、それだけで達美があなた方を生かしたわけではありません」
 女の声は、シエロの予想通りランナフォンから聞こえてきた。
 ロボット頭に備えられた小さなハッチが開き、低出力レーザーが飛びだす。
 これは、達美のリサイタルでも見た。
 可視光レーザーで遠くの壁まで大きく、はっきりした動画を映し出す、プロジェクター。
 だが、このレーザーは違った。
 ヴーンと言う音が鳴る間に、複数のランナフォンから放たれたレーザーは空中でぶつかり合い、そのたびに枝分かれしたり曲がったりしていく。
 それを見た時、シエロは思い出した。
 先ほどの戦闘でチェ連側の攻撃を無効化した兵器、干渉レーザー狙撃システム、イルスと同じ技術だ。
 恐怖が、心臓をわしづかみにされたような感覚に変わる。
 だが、シエロはその恐怖に打ち勝った。
 口を真一文字に結び、その様子を見守った。
 レーザーは交差するたびに形を複雑に変え、直線だった部分は丸みさえ帯びていく。
 立体映像だったのだ。
「わたくしは、達美があなた方を助けたのを、彼女の内からくる優しさゆえだと信じています」 
 達美への尊敬の込められた声。
 それと共に現れた姿は、実に麗しい女性だった。
 その姿を見た時、シエロの心は震えた。
 背は達美より10センチは高い160センチほど。
 髪は背の半ばまで届くストレートで、その色艶は理想的な表現を施してある。
 白く透き通った肌に、深く黒く澄んだ瞳。
 手足や腰つきはほっそりしているものの、胸には母性を感じさせる豊かさがあった。
 シエロには、少女から大人へと変わる姿を、もっと理想化した姿に思えた。
 そんな彼女は今、ピンク色のナースキャップに白衣をまとっている。
 だがその美しさに赤く熱くなる頬も、彼女の映像化されない足元を見れば色を失う。

「オウルロード! ヒサ アミ! 」
 シエロの隣で寝ていた男が叫んだ。
 カーリタース・ペンフレット。
 チェ連の工業地帯、マトリクス地域を支える科学者の一人だ。
 普段運動もしない、機密にかかわる者の特権にあぐらをかき、ぶくぶく肥った男。
 それが、右腕を骨折していたにもかかわらず、跳ね起きて正座する。
 ベッドの横に小さい机があり、その上に彼のメガネがあった。
 それさえ腕の痛みに耐えながら神経質そうな目にかけた。
 そしてオウルロードに向き合った。

 この男は、シエロと共に真脇 達美の歌を聴きに行ったこともある。
 その時は、舞台を見ずに必死の形相でメモを取っていた。
 暗い観客席でカーリタースは、みたこともない日本への恐れを蓄積させていたのだ。 

「はい、そうです」
 編美に声をかけられたカーリタースは、青ざめた顔で話し出した。
「あなた様のことは、良く存知あげております!
 元は、ばーちゃる・りありてぃ・まっしぶりー・まるちぷれいやー・おんらいん・ろーるぷれいんぐげーむ……VRMMORPGの監視システムだったとか! 」
 Virtual Reality Massively Multiplayer Online Role-Playing Game。略してVRMMORPG。
 コンピュータの中に作られた仮想現実空間でアバターと呼ばれる自分の分身を作り出し、それを通じて視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚と言った感覚すべてフィードバックさせる。
 コンピュータは世界中のアバターや仮想空間に繋がっており、それを通じてゲームで遊んだり、現実を疑似体験したりできる。
 そのあまりの壮大さに、シエロは現実から破たんしていると思ったのだが。

 話している間に、カーリタースの顔がみるみる青ざめていく。
 それでも話し続ける。
「VRMMORPGは、なぜだか異世界への門を開く。