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おもかげ

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幾分蒼褪めた日暮れ
わたしはわたしの影法師を
踏み踏み歩いておりました
町にはようよう冬が来て
道行く人等はふくらすずめ
遠き春 恋し春

遠い遠い空の向うを
多くのいのちを載せた船が
西へ西へ
泳いでいきます
あれはあの子の船かしらん
わたしを置いていったひと
其方に何があるのかしらん
わたしはぽかんと見送ります

 あ 風花が舞う


わたしが今立つこの冬も
今日という日も
いつか時がうずめるでしょう
欄干の向うに立った夜(よ)が
今となっては遠いこと
何でも遠くになるものです

けれどもそのためには
歩き続けなければなりません

ふと立ち止まれば薄闇に
おもかげが立つのです
よく目を凝らせばこの路は
死に損なったわたしの骸で出来ています

今日の「わたし」もいずれ死に損ない
過ぎ去ったひとつの一日として
天へのぼる階のひとつとして
積み上げられる
腐らないまま

何の気なしに或る日を歩くとある「わたし」が
思い出すその日が来るまでは
水底で眠り続けるのです

ひとつ
冬が廻りましたが
頂に立つ「わたし」は彼等とおんなじ顔です
作品名:おもかげ 作家名:彩杜