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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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しつこい闘病ボクシング

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『赤コーナー!
 ビール腹ぁ、運動不足ぅ~~喫煙者ァァ~~!』

コーナーポストから赤いグローブをつけた
見るからに「小太りのお父さん」がリング中央に。

『青コーナー!
 アルコールよりやって来たぁぁ……
 かん~~ぞう~~ガンーー!!』

対角線上からは青いグローブを付けた肝臓がんが
やる気満々とばかりに血走った眼を向ける。

「負けてたまるか。
 肝臓がんなんかぶっ飛ばしてやる」

「粋がるな中年。
 それだけ酒飲んでぼろぼろの体で俺に勝てるかよ」

ゴングの前にすでに火花が飛び散る。

「ラウンド1、ファイッ!!」

 ・
 ・
 ・

ラウンド5まで終わった。

肝臓ガンは涼しい顔でコーナーに座り、
病魔コーチから次の攻め方のアドバイスを受けている。

一方、男はというと。

「も……もう無理……強すぎ……」

「バカ野郎! もっと打って打って打ちまくれ!
 病魔から逃げていたって勝てないぞ!」

白血球コーチからのアドバイスも耳に入らないほど
すでにボコボコにされてグロッキーな状態。

「こ、これで12ラウンド戦うくらいなら……。
 いっそどこかで負けて……」

「なに言ってんだ! 早く行け!」

白血球は抗がん剤を飲ませて男の背中をばしっと叩いた。


「ラウンド6、ファイッ!」

6ラウンド目も肝臓がんの一方的な試合運びになった。
男はすでに構えているのがやっとで攻撃なんてできない。

「どうしたどうした!
 毎晩飲み明かしているからそうなるんだぜぇ!」

ボスッ。

「うぐっ」

「てめぇが毎日飲んだくれるおかげで、
 こっちはどれだけ強くなれたかわからねぇや!」

バシッ。


「ダウン!
 1、2、3、4……」

レフェリーの声が遠くに感じられる。
立ち上がることもできるが、体は拒否している。

「5、6、7……」

それに、ここで立ち上がってどうなるんだ。
ガンにボコボコにされて負けるために立ち上がるのか。

「8、9……」

もう十分やったじゃないか。
このまま倒れても自分を責める人なんていやしない。



「負けないで!!」


その声にハッとして目を覚ました。
客席にはまだキスもしていない恋人が観戦に来ている。

考えるより早く体がファイティングポーズをとっていた。

「まだ立ち上がるんだ。いい度胸じゃないか。
 でも、その顔を見たところ体力は残っていない。
 抵抗力が落ちた状態で俺に勝てるかな」

「勝てる。絶対に勝つ!」

そのラウンドから男は劇的に変わった。
防戦一方だった試合から一転、攻撃のみに専念した。

「ぐっ……なんだ!? いったい何が起きた!?」

すでに攻め続けていた肝臓ガンは息も絶え絶え、
防御に徹する余裕がない。

男のラッシュをかわそうにも体がついていかない。

「ど、どうしてだ!
 どうして……こんなに急に……!!」

猛攻に肝臓ガンがよろめいたその瞬間。
男の右ストレートが、肝臓ガンにクリーンヒットした。


「病は……気からなんだよぉぉぉ!!」


肝臓ガンは初めてダウンし、そこから立ち上がることはなかった。

「勝者!! 赤コーナーーー!!」

どっと割れるような歓声が轟いだ。
男はすぐに客席にいる女の名前を呼んだ。

女がリングに上がるなりすぐに抱きしめて
舌を絡ませる熱いキスを行った。

「君がいてくれたから僕は勝てたんだ。
 最後の最後で、君とのイチャイチャ生活ができないと思うと
 どうしてもここで負けるわけにはいかなかった」

「嬉しいわ。でも……」

女はコーナーポストを指さした。
青コーナーに新たな選手が
やる気満々とばかりにリングに立っていた。



「続きまして、第2試合!
 青コーナー……キスよりやって来たぁB型肝炎~~~!!」