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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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マッチョオーバーザワールド

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「なによあの子。だらしない胸よねぇ」
「いまどきあんな巨乳下げて恥ずかしくないのかしら」
「腰だってくびれてるし、だっさー」

「私だって……望んでなったわけじゃ……」

「なによ口答えする気!」
「筋肉ないくせに!」
「そーよ! ひ弱な体のくせに偉そうよ!」

だから女子トイレにはいきたくなかった。

私は生まれつきみんなと違って筋肉がつきにくい。
男子はみんな胸板が厚くてふとももパンパンで
二の腕がコンクリートブロックのように固い女の子が好きだ。

私の不相応な体つきと、モテないことがあいまって
格好のいじめ対象になっていることはわかっていた。

「お前、どうしたんだ。そんなずぶぬれで」

「先生……。いえ、なんでもないです……」

家に帰ると、プロテインを飲んで筋トレを行った。
毎日欠かさずやっている日課の成果が出たためしはなかった。

翌日、学校につくと男子が道で拾ったらしい
いやらしい雑誌を集まってみていた。

「おい、見ろよ。この腹筋、えろいなー」
「首なんて丸太だぜ、たまんないよ」
「この背筋触りてぇぇぇ」

「……あの、そこ私の席なんだけど」

雑誌に夢中になっていた男子が振り向いて、
私の体をじろりと見るなりため息をついた。

「はぁ……現実は残酷だなぁ」
「お前の体ってホント色気ゼロだよな」
「胸はでけーし、腰はくびれて、体はきゃしゃだし」

「私だって……私だって努力してるもん!!」

涙腺が壊れたように涙が噴き出した。

男子にバカにされた辛さと
私の努力も存在価値もまるごと否定された気がして。


私は教室を出て屋上に向かった。

眼下に広がるグラウンドが私を待っているみたいだった。
幸い、生徒はまだいないので巻き添えにすることはない。

「……もうこんな世界、イヤ」

お兄ちゃんも、お母さんも、お父さんもみんなマッチョ。
なのにどうして私だけ……。

『あなたね、もっと筋肉つけなさいよ』
『お前がマッチョになれるまではケータイ没収だ』
『ったく、筋肉もない癖に兄に意見するな』

家も、学校もどこにも私の居場所なんてない。
こんな体に、こんな体質であったばかりに。

「さようなら」




「ダメだ!!」

聞き覚えのある声に振り向く。

「先生……どうして……!?」

「お前は死ぬには早すぎる。
 そんな簡単に死のうとするんじゃない」

「先生はわかってないんです!
 学校で私がどんな扱いを受けてどんな気持ちか!
 家でどんな風に接されているのか知らないから言えるんです!」

「ああ、知らないとも!
 だけど、お前だって世界を知っていない!」

「えっ……」

先生はまばたきもせずにこちらを見ている。

「この世界は学校と家だけじゃないんだ。
 もっともっと多くの人がいる。たくさんの人がいる。
 お前のこの大きなおっぱいも好きになってくれるよ」

「でも! 私が好きな人が……。
 私を好きになってくれるはずないです!
 男の人はみんな胸板が厚くて筋骨隆々な女の子が……」

瞬間、先生に抱きしめられた。

「せ、先生……!」

「そんなことはない。
 先生は、お前の低い身長も幼い顔立ちも
 アンバランスな巨乳も大好きだ。全部大好きだ、愛している。
 筋肉なんてないお前の体が大好きなんだ」

「あの、先生……






 私、まだ小学生です」

その後、先生はすぐに逮捕された。