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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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すばらしきタイムリミット人生

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「このタイムリミット用紙に記入を」

用紙にはさまざまな項目が箇条書きで書かれていた。

寿命……
結婚生活……
独身生活……
仕事……
回数……
 ・
 ・

「あなたの人生でこれから過ごしていく
 それぞれのタイムリミットを決めてください」

寿命は……あまり長く生きてもしょうがないから60年。
結婚生活は10年くらいあれば十分だろう。
独身は50、いや、40年くらいにしておこう。

「この回数って、なんの回数ですか?」

「リミット項目についてはお答えできません」

「なんだよ……」

とりあえず、「3」とだけ書いて記入を進めた。

「ご記入ありがとうございました。
 今後、あなたの人生はこのタイムリミット通りに進みます」

その日から俺の人生は激変した。



「あなた、お正月休みだからって
 家でゴロゴロしてないでよ!!」

「ああ、わかったわかった。
 それじゃあどこか出かけようか」

これまで口うるさい妻には殺意しかわかなかったが、
結婚生活10年のタイムリミットが決められてからハリが出た。

どんなにつらくても10年がまんすれば自由になれる。
だったら、今の辛い思い出も解放感を増すためのスパイスだ。

「あなた、最近になって
 ずいぶん家族サービスするようになったわね。
 前はすぐに怒鳴っていたじゃない」

「終わりが見えると人は優しくなれるんだよ」

「? 何言ってるの?」

10年後タイムリミット通り、妻とは別れて自由の身になった。
あとは残りの寿命を思う存分楽しむだけだ。


「社長、最近ずいぶんと仕事頑張ってますね。
 まるで若いころのようです」

「ああ、そうだろう。
 あと5年だと知っているとやり残したことがないようにって
 なんだかやる気が出てくるんだよ」

仕事はあと5年。
5年後に最高の終わり方をするために、仕事にも勢が出る。

「私……社長が好きなんです!」

「あ、僕も君のことが好きだよ」

恋愛のリミットは2年。
この2年間で思う存分、恋愛を楽しもう。

終わりが見えるようになってからというもの、
俺の人生はどんどん充実し始めた。

いや、違う。

前の俺はダラダラと毎日を食いつぶしていただけだったんだ。

毎日があっという間に過ぎて、
気が付けば寿命のリミットが迫ってきていた。

「もう恋愛も仕事もリミットが来てしまったが、
 ここにきてもっと人生を楽しみたいと思うなんてなぁ……」

60歳で死ぬ想定で、ほかのタイムリミットを設定していた。
だから、もうほとんどののタイムリミットが来ていたが
まだまだ人生を味わっていたかった。

「結局、回数ってなんだったんだろうな」

他に残されたリミットがないか用紙を確認する。

寿命……60
結婚生活……リミット済
独身生活……リミット済
仕事……リミット済
回数……3
 ・
 ・

「……そうだ」

用紙の記入は鉛筆で行っていた。
これを書き直せば寿命のリミットが伸びるかもしれない!

寿命……70

寿命の項目を書き換えたあとの60歳の誕生日。
ドキドキしながらその時間を待っていると……。

「死んでない……!
 60歳になったのに死んでない!
 書き直しできるんだ!」

まだまだ人生を味わい倒せる。
そのことが何よりもうれしかった。

「そうだ、書き直しできるのなら
 いっそ最大限まで書いて死にたくなったら書き直せばいいんだ」

寿命……10000000000

寿命の項目を再度書き直した。
これだけあれば人生を好きなだけ楽しめるだろう。

翌年も、その翌年も70年たっても100年たっても
俺は設定したリミット通り死ぬことはなかった。

「……暇だ」

あれだけ死ぬ間際にやり残したことや
やりたいことを考えていたはずなのに。
いざ、大量の時間を与えられるとまるでやる気がなくなった。

なにもすることがない。


仕事……10


試しに仕事のリミットを再設定してみるも、
寿命10000000000年のうちの10年なんてたかが知れている。

あれだけ熱意を向けていた仕事も
寿命が大量にあるとなると全然身が入らなかった。

「あーーあ、これなら60歳の最高の気分で死んでればよかった」

もっと人生を楽しめると思っていたが期待外れだった。
俺は用紙を取り出す。

「あれ? 回数が減ってる」

回数……リミット済


なにかしただろうか。
たった3回、いったい何をしたんだ?

「まあいいか。さっさと死のう」

俺は寿命の項目に消しゴムをかけた。
そこで、やっと回数の意味が分かった。


「き、消えない……! どうして!?
 まさかのこの回数って書き直しの……」


残りの寿命……9999999999年