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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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史上空前の大ヒット映画作り

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「最高の映画を作ってほしい!」

プロデューサーから多額の資金を渡された映画監督は
大いに自信をなくしてため息をついた。

「監督、どうしたんですか?
 これだけの資金があればいい映画が作れますよ」

「君はなにもわかっていない。
 最近の映画は資金じゃないんだよ……」

いまや映画の求められる水準は高くなっている。
金をかけてCGを凝ろうが、車を爆破しようが
人気の俳優を使おうが売れないものは売れない。

むしろ多額の金をつぎ込んでも
それに見合わない収入ばかりで困っているほどだ。

「最近じゃネットで違法動画も流出するし、
 レンタルも身近になっているから映画のヒットはなお難しい」

「監督の手腕なら大丈夫ですよ!」

「君、俺の代表作知っている?」
「いえ」

「俺はその程度の監督なんだよぉぉぉぉ!!!」

「なんで逆ギレなんですか!?」

監督はフィルムで自分の頭を殴りだした。

「代表作もない! コネもない!
 そんな俺に最高の映画なんて作れるわけないだろ!!」

「ちなみに、以前作った作品は?」

「『恋のラブレター~80歳の君へ~』だ」
「うわつまんなそう」

「じじいとばばあの恋愛映画なら斬新だと思ったんだよ」

「はぁ……」

「でも、じじいとばばあは映画館来ないからな!!
 世紀の駄作として有名になったよ!」

監督の持つ才能の絶対量が、
おそらく素人以下しかないことを知ったスタッフは悩んだ。

「監督、それじゃ映画にお金をかけるのを辞めませんか?」

「なんだって?」

「映画館にお金をかけましょう。
 おいしい食べ物、ふかふかな座席とかにすれば
 映画はつまらなくてもお客さんは満足してくれますよ」

「そうはいってもだなぁ……」

監督はぴんと閃いた。
まさに起死回生のアイデアだった。

「それだ! 映画館に金をかけるんだよ!!」


数日後、監督は出来上がった映画館にスタッフを呼んだ。

一見すると普通の映画館のように見えるが、
座席には背骨に当たる部分にパッドが仕込んでいた。

「監督、映画資金のほとんどを使って作ったって本当ですか?」

「ああ、本当だとも。
 この『感情爆発イス』さえあれば大ヒット間違いなしだ」

さっそくスタッフはイスに座らされ、
できたばかりの映画をすぐに見せられた。

すると、どうだろう。

テレビ放送されていても誰も見向きもしない駄作なのに、
スタッフは泣き、喜び、怒り、笑って感情を爆発させた。

「監督、この映画すばらしいです!
 主人公と一緒に感情が高ぶりました!! 特に冒頭が!」

「そうだろう、そうだろう。
 このイスは映画のシーンに合わせて電気を送って
 見ている人の感情を爆発させるんだよ」

「これならどんなゴミ映画でも名作間違いなしですね!」
「ゴミちゃうわ!」

イスの効果てきめんで監督も大満足だった。
けれど、スタッフの感想も気になった。

「ところで、どうして冒頭がよかったんだ?
 冒頭なんてたいして面白いシーンじゃないだろう」

「ええ、でもどうしてか一番感動したんです」

監督は改めてイスの調整を確認してみると、
最初の電気ショックが一番効果的で、
それ以降のものは慣れてあまり効果がないことに気付いた。

「これは大変だ。すぐにシーンを切り替えよう」

監督は映画をもう一度再編集して、
最初の方に映画の一番のヤマ場を差し込んだ。

「うわははは! これなら完璧だ!
 最初で感情を爆発して感動すれば大ヒット間違いなしだ!」

「やりましたね監督!」

映画も完璧に仕上げ、イスも準備万端。
監督はサインの練習とインタビューの台本まで用意した。

「さあ、映画公開だ!!」




映画が公開されるなり、あっという間に口コミが広がった。

「映画が始まる前の映画泥棒、面白かったぁ!」
「あの映画泥棒のシーン最高だよねぇ!」
「なんか見ていて一番感情が爆発しちゃった!」



「え? 映画の内容?
 始まる前の映画泥棒が面白すぎて覚えてないよ」

客の感想は全部同じになった。