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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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一芸人間のシンフォニー

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『最新作の"悪魔"はどういった本なんですか?』

『あれはね、人間の心理を掘り下げた
 ヒューマンダークファンタジードラマなんですよ。
 男と女の愛憎劇を特に力を込めて書きました』

『大人気作家・売れっ子泰造さんでしたーー』

テレビに蹴りを入れて強引に電源をブチ切った。
泰造とは昔からの幼馴染で、
文学界デビューも動機で同じスタートラインだったはず。

悔しい気持ちが頭にわいてくると、
先日の泰造の言葉が思い出された。

"才能もないのに続けて、意味あんの?"

劣等感にさいなまれながら
このまま一生同じ暮らしをするなんて耐えられない。

俺はビルの屋上に立っていた。

「俺の人生、なにもいいことなかったな」

手すりを越えると、悪魔がやってきた。


「人間は不思議だな。
 ちょっとでも自分の思い通りにいかないと死にたがる」

「ほっといてくれ。
 悪魔のお前に俺の気持ちがわかってたまるか」

「わからないし、知りたくもない。
 ただ、お前の今後の人生を観察したくなった」

悪魔は不思議な力を俺の中に送り込んだ。

「お前の文才を異常なほど向上させた。
 この先、お前の人生がどうなるか興味がある」

「あんたは神か!!」

嬉しくなって家に戻り才能を確かめる。
たしかに、これまで思いつかなかった表現はもちろん
誰にもまねできないアイデアがどんどんわいてくる。

「こ、これはすごい!
 売れっ子間違いなしだ!!」

さっそく1冊の本を書き終えて応募した。
自分でもわかりきっていたが、
やっぱり新人賞を簡単に受賞してしまった。

その授賞式。

「それでは、満場一致で新人賞を獲得した
 大型新人・ウレナさんから一言お願いします」

俺の鼻さきにマイクが向く。
この光景をどれだけ待っていたことか。

「あーー……えっと……うぅーーん……。
 そのぉ……はぁーー……あーー……えーー……」

言葉が出ない。
なにを答えていいかわからない。
頭の中で言葉が渋滞しているみたいだ。

「え、えっと。それでは今の気持ちをどうぞ」

「き、気持ちはーー……えと……そのぉーー……」

その新人賞授賞式はお蔵入りとなった。
俺がなにもコメントできないさまがあまりにひどかったので。

自分自身がなさけなくなって、
飲み明かそうと入ったバー。

「お会計、5万2900円になります」

「あぁ、はい」

財布を開くと、知らない紙切れが入っている。
なんだこれは。

「あの、お会計をお願いします」

「は、はいぃ! それじゃこれで!」

「5千円6枚出されましても……」

「えっえっ!? それじゃあこれで!」

「それは千円札です」

店員に財布から金を抜いてもらって会計を済ませた。
鈍感な俺でもさすがに身をもって気が付いた。

「俺の能力が……なくなってる」

悪魔にたぐいまれな文才を与えられた反面、
それ以外のすべての能力が人並みいかに著しく低下していた。

いまや箸の持ち方すら自信がない。

「ま、まあ、文才さえあれば大丈夫だ!」

俺は自分のたしかな才能を信じて書き続けた。

それからちょいちょい取材や出版社なども来たが、
日に日にその数を減らしてついには元の状態になった。

なにせ、今の俺はスケジュールを理解することもできないし
時間の計算はおろかコミュニケーションすら取れない。

「あんな扱いずらい作家はごめんだね」
「あれじゃテレビ映えしないよ」

去り際にそんなことばかり言われるように。
世間では一発屋として終わり、
いくら最新作を書いてもだれも評価しなくなった。

「そうだ! このまま書き続けて才能を枯らせば
 ほかの能力が戻ってくるかもしれない!」

そう思って必死に書き続けた。
才能は枯れるどころかさらに輝きをまして、
今やほかのどの作家よりも優れたものが書けるように。

それでも、誰も評価はしなくなっていた。





「また来たのか、人間」

ビルの屋上であの時の悪魔と再会した。

「せっかく最高の能力をひとつ与えたのに、
 死にたがるなんて理解に苦しむな」

「この世界はひとつの能力だけじゃ評価されない。
 圧倒的に、一芸に秀でた人よりも、
 ほかよりちょっと優れた多彩さが求められるんだ」

スポーツ選手なのにしゃべりがうまい。
人気作家なのにクイズで負け知らず。
俳優なのにお笑いが上手。

「……みんな多彩で才能が豊かだ。
 劣等感に苦しむくらいだったらいっそ……」

「お前、本当に多彩な人間ばかりだと思っているのか?」

悪魔は俺を指さして笑った。

「お前と同じように悪魔の力を手に入れて
 一つの能力だけ優れさせた人間はごまんといるのに」


※ ※ ※

「まもなく、売れっ子泰造さんのインタビューです!」

スタッフが声をかけると、
泰造のもとにマネージャーから台本が渡された。

「いつも助かる。この台本通りに答えれば
 完璧なインタビューになるんだな」

「はい、間違いありません。
 これだけは才能があることなので」

マネージャーと入れ違いで今度はスタイリストがやってくる。

「今日も完璧なコーディネートを頼む」

「ええ、おまかせください。
 私はこれしか才能がありませんから」

スタイリストの次は、ゴーストライターがやってくる。

「それで、最新作はできたんだな?」

「えぇー……そのぉーー……あーー……」

男の手元にある書籍を受け取り、
代わりに大量の報酬を受け取らせる。

「幼馴染のよしみでこれからも頼むよ。
 お前が書くようになってから売り上げも激増したからね」

「あーー……はぁーー……」


「インタビューします! 会場へ入ってください!」

スタッフの声かけて泰造は会場へと向かった。


最高の台本しか書けないマネージャー。
完璧なスタイリングしかできないスタイリスト、
名作しか書けないゴーストライター。

そして……。

ルックスしか良くない、俺。


「きっと多彩な才能をつかさどる神にでも見えているんだろうな」