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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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なんでも質屋に入ってみた。

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近所に古びた質屋があることは前から知っていた。
でも、なんだか入りずらかったので敬遠していたその場所に
何を間違ったのかふらと俺は立ち寄った。

「なんでも質屋へようこそ」

質屋には初めて入った。
ガラスケースにはさまざまなものが陳列されている。

小さなものから大きなものまで。
人ひとり入りそうな大きな箱まである。

「あの、ここは質屋さんなんですよね?」

「いいえ、なんでも質屋です」

「なんでも?」

「ええ、どんなものでも質に入れられるんですよ」

店主の言うように、ガラスケースには
一見ゴミにしか見えないものや手紙まで入っている。

本当に、なんでも質入れさせてくれるんだ。

「それじゃあ、この石ころも質入れしてもらえますか?」

「ええ、もちろん」

足元で拾った石ですら質入れしてもらえる。
本当になんでも質屋なんだ。

「この店にはお客さんがよく来るんですか?」

「ええ、ええ。そりゃあね。
 この店はどこにもつながっていますから」

店主の言葉の意味はわからなかったが、
繁盛していてなんでも受け取ってくれるなんでも質屋。

もしかしたら、とんでもない情報が
行き場を失ってこの質屋に入っているのかもしれない。

「あの、この手紙をください」

「はい毎度」

うきうきしながら手紙を開くと、
まるで見透かしていたように指示が書かれていた。


―― 箱を買え


顔を上げると、店のショーケースにいは大きな箱。
もともと興味はあったものの、この手紙に背中を押されて
使い道がまったく思いつかない変な箱を買った。

箱を家に持って帰ると、母親が不思議そうな顔をした。

「おかえりぃ。大きな箱だねぇ、何が入っているんだい?」

「さぁ」

母親は認知症だけでなく体も悪い。
介護生活がここ数年続き、俺は会社を辞めることになった。

なんでも質屋、か。


再び質屋に訪れて「それ」を預けた。

「確かにお預かりしました」

母親はショーケースの中へと閉じ込められて、
対照的に俺は介護の負担から一気に解放された。

「やったー! 金も手に入ったし、
 これで自分の思い通りに行動できるぜ!」

それから数日は、本当に楽しかった。
仲間と飲み会に行って、旅行に出かけて……。

でも、どうしても質屋に預けた母親のことが気にかかった。

なにをしていても罪悪感が頭をかすめて、
100%心から楽しめることはない。

「ダメだ! やっぱり取り戻して来よう!」

お金を握りしめて再びなんでも質屋に戻ったが、
すでに母親の姿はなかった。

「あの! ここに入っていた人は!?」

「売れましたよ」

「誰に売ったんですか!」
「それは言えません」

店主が口を割らないので、自力で探すことに。
警察にも協力してもらったが、
いくら探しても痕跡ひとつ出なかった。

「あなたの言う質屋さんに訪れた人は、あなたしかいないんですよ」

という身もふたもないことまでわかった。
それじゃいったい誰が母を買い取ったんだ。

質屋をくまなく探しても人ひとりを匿える場所なんてない。。

完全に手詰まりを悟った俺は強硬策に出た。


「俺を、質に入れてください」


質屋は少しもひるまずに、俺をケースへと運んだ。
透明なガラス越しに店内の様子が見える。

質入れされてから数日後、店に俺が訪れた。

「なっ!? なんで俺が!?」

別の俺は、俺を迷わずに買い取った。

質に収められているものは、
過去・現実・未来のどこからも引き出せるんだ。

「俺は、2060年の俺だ。どうしてこんなところに……」

「母親を買い取った犯人を捜すためさ。
 俺自身が質入れしていれば、どの客が来たのかわかるからな」

俺の言葉に、未来の俺は「ああ」と納得したようで、

「悪かった。この世界にはもう母はいないから。
 つい懐かしさで買い取ってしまったんだ」

「気持ちは俺だからわかるけど、返してもらう。
 お前も、いつまでも過去にばかり戻ろうとするな。
 いくら過去に触れても未来が良くなりはしない」

「ああ、そうだな……確かに俺は母親と過ごすことで、
 今の現実から逃げようとしていたのかもしれない」

俺だけあって、俺の言葉がすっと入っていく。

「わかった。母親を返そう」

未来の俺が振り返ると……



「ひゃっほーー!! 未来さいこーー!!」

半サイボーグになった母親が
ビルの屋上をバッタのように飛び移っていた。

その後、数週間に及ぶ俺の説得に母は耳を貸さず
サイボーグおばあちゃんとして未来で第二の生涯を送ることを決めた。

「やっぱり母親の愛が大事とかそういうオチじゃないの!?」

「それより、俺。いったいどうやって帰るんだよ」

「あっ……」

未来に来てしまったのはいいけれど、
今度は過去に戻る方法がわからない。

ショーケースにならんだ自分を見て、過去の俺は買うだろうか。

「……買わないだろうなぁ」

悩んでいると、未来の俺が大きな箱を持ってきた。

「人じゃないと思わせればいいんじゃないか?
 大きな箱だと思わせれば、買う人はいるよ」

「なるほど!」

未来の俺が用意した「高機能多機能棺」に体を入れる。
中は思った以上に快適で、好きな時に外に出られる。


「いらっしゃい。なんでも質屋へようこそ」


未来の俺は、箱ごと俺を質屋に入れた。

「ああ、そうだ。未来の俺、
 手紙を1枚だけ質入れしてくれないか?」

「かまわないけど、なんて書けばいい?」

「"箱を買え"とだけ書いてくれ」


未来の俺は短い手紙を1通、一緒に質入れした。