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嘘みたいに、福

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私のアルバイト先のファミレスにはしばしば、多種多様に、一心不乱に、パンチの効いた客が来る。そういった人物は、決まって平日の夕方ごろ、店が暇な頃に出現する。あまりにも退屈だった私が、両手の指毛の数を真剣に数えてなんかいる時に女はお出ましになった。
「昨日ドリンクバーを注文したんですけど時間が無くて一杯しか飲めなかったから、代金は昨日支払った分でよろしくします」

 チーム七福神のリーダーともいえる恵比寿似のおばさんは、入店するやいなや申し出た。明らかに恵比寿だ。でもニコニコしていない恵比寿だ。笑ってはいないのに恵比寿だなんて、なんて不思議な顔なんだろう。言動を除けば、初対面の人物に好印象を持たれる面構えの恵比須っぷりだ。それはさておき、「よろしくします」とは何事か。と唖然としている私に見向きもせず、勝手に先ほど帰った客の皿やグラスが片付いていないテーブル席に着き、ガブガブとドリンクバーのジュースを飲み始めた。ヤバい奴がきた。こうゆう奴の対応をするときは時給を300円ほど上げてもらいたいものだ。このような人物に下手に「お客様、困ります」などと言うと、狂って刃物を振り回したりし兼ねない。確実に危険な状況に陥ってしまう。どちらかというと私はドリンクバーの飲物よりも命を大事にしたいタイプの人間だ。
 というわけで私はそのおばさんが気の済むまで水分を補給し、満足げにドリンクバーの周りを闊歩する彼女を見て見ぬふりでやり過ごすことにした。これはもしかすると、無銭飲食における共犯といえるだろうか?時給を下げられはしまいか?アフロヘア―の人はどのくらいの頻度で髪の毛を洗っているのだろうか?様々な疑問を胸にモヤッとさせながら、彼女を観察する。

 「よろしくします」というよくわからない発言もさることながら、そのおばさんのドリンクバーの利用方法が小慣れ過ぎている件にも注目したい。ササッとグラスを片手で二つ持ち、氷を素早く入れたかと思えば次の瞬間、コーヒーカップ置き場へ反復横跳びの要領で平行移動しカップをコーヒーマシン抽出口の丁度良い位置に設置。速やかにアメリカンのボタンを押した。その40秒弱のコーヒー抽出に至る空きの時間に5m程離れているジュースコーナーへ移動し、予め氷を入れておいた2つのグラスにカルピスとコーラのボタンを人差し指と中指で華麗にプッシュ。無駄のない動きであっという間にカルピス、コーラを上手に右手の指と指の間に挟み、左手にはアメリカン。華麗にツーステップを踏みながら席へ戻り、ゴブリゴブリと喉に流しこんだ。一人の店員(私)が自分の見事なドリンクバーさばきに見惚れていたと錯覚してるらしい彼女は、その後もお気の召すまでドリンクバーをたしなみ、「助かります」と、一礼し、こちらにえべっさん顔負けにまろやかに微笑み、店を後にした。


 この日、彼女が退店した直後私のバイト先は、嘘みたいに繁盛しだした
作品名:嘘みたいに、福 作家名:konon