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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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硝子文字

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紫の手紙文字




封筒のなかからカビの匂いがしている

拝啓の文字はセピア色の便箋に載っているが

鉛筆書きの文字は毛糸で編んだように解れはじめていた

その一本の糸が

次の文字へとぼくを誘う

紫色の涙の痕が残っている文字は

涙ではないのだ

インクの痕なのだと思う

この手紙を読みながら

僕は君に返事を書いていた

その万年筆から滴れ落ちたインクなのだと

さようなら

の文字が僕の体を縛り付けた

君を追いかけ様とする僕の気持ちを

その文字は手裏剣のように

鋭い刃で飛んで来た

僕は咄嗟に過去を思い出した

「考えてみるよ」

その時の君の涙だったのかと

それから何度も読み返した記憶があった

そうか

その時に落ちた涙なのかと今になって気が付く

どうしているだろうかと

君も思う事があるのだろうか

過去を
作品名:硝子文字 作家名:吉葉ひろし