ぼくとタロ助
作品名：ぼくとタロ助
夏休みぼくは近くの山にセミを取りに出かけた。出かけるときにお母さんから
「山のクマには気をつけるんだよ、いつ襲って来るかわからないから」
「わかった、気をつける」
そう言われてぼくは出かけた。よくクマは怖いものだから気をつけたほうがいいと言われるけど、本当なのかな。まあ襲われた人とかいるからそうなんだろうけど。
セミ取り網を持ってセミの鳴き声をたよりに探していると、猟師たちの話し声が聞こえてきた。
「昨日も大きいのが獲れましたな」
「ああ、あのクマか、その後食べたがあれはうまかったな」
「これこそ猟の醍醐味ですよね」
「動物を捕まえて食す、これこそ猟師の楽しみよ」
ぼくは話を聞いてふと考えた。動物を捕まえ殺し食す、殺すのも怖いのにそれを食べるなんて。ぼくには理解できなかった。気を取り直しセミ取りを再開する。一つ一つの木を見ていたらミンミンゼミがとまっているのを見つけた。ぼくはすぐさま網をかけた。すると網の中にセミが入り捕まえることができた。
「ああなんだよこれ」
「セミ取り網だよ」
「なんだお前」
「ぼくかい、ぼくは人間だよ」
「そんなこと知ってる、なんで俺の言葉が分かるんだよ」
「ぼくにもわかんない、気がついたら動物の言葉が分かるようになってた」
「ならなおさらこんなのやめろよ」
「捕まえるのが楽しみになってね」
「お前もあの猟師たちと変わんないな」
「違うよ、全然違う」
「捕まえるってことに変わりないじゃないか、話せるだけ余計たちが悪い」
「そんなこと言わないでよ」
「とにかくこんなことやめることだな」
「えっ、ちょっと」
網から抜け出し出て行くセミ。セミを逃がしてしまったことよりも猟師たちと一緒と言われたのが気になっていた。あんなのと一緒なわけ無い。あいつらは殺すんだぞ、でも捕まえられた方からすれば何されるかわからないって意味では一緒なのかなとも思ったりする。すっかりやる気のなくなったぼくは家に帰ろうとした時、泣いている子グマが林の奥にいるのを見つけた。その子グマが気になったぼくは子グマがいる場所へ向かった。その子グマは悲しい表情をしていた。ぼくは気になって声をかけてみた。
「どうしたの？ 大丈夫？」
「かあちゃん、死んじまった。へへへ」
必死に笑顔で話そうとする子グマにぼくは何も言えなかった。もしかしてこの子グマの親がさっき猟師たちが言ってたやつじゃないかと思ったりした。
「昨日猟師にやられたんだ、かあちゃんいつも言ってた、お前は男の子なんだから強くなきゃダメだって、でもこんなの・・・、お前人間じゃないか、何しに来たんだよ、俺も食うつもりか」
「そんなつもりじゃ」
「かあちゃんだって死んだんだ、俺がかあちゃんのかたきを」
子グマはぼくの方に向かおうとしたが、足を怪我していたらしく、その場に倒れた。
「大丈夫？」
「なにこんなの大した傷じゃ」
動きづらそうにしている子グマ。ぼくはなんとしてもこの子グマの力になりたいと思った。ぼくはお母さんもお父さんも元気だから、お母さんを失ったこの子の気持ちなんてわからないし、共感もしてあげられないし、むしろこの子には迷惑な話だろうとも思うんだけど、でも、それでもなにかしたい、そんな気持ちが芽生えて、ぼくはこの子グマを背負い、家まで連れて行くことにした。家に帰ればこの子の怪我を治すことができる、そう考えたからだ。ただ子グマは背負ってすぐ激しく抵抗した。そのたびに背負い直しては進むを繰り返した。段々抵抗する力もなくなり、気がついたら寝てしまっていた。
家に着くとぼくは家族に見つからないように救急箱を取り出し、子グマに手当をした。また目が覚めてからはご飯もあげた。
「うまい、うまいよ」
笑顔で食べる子グマ。
「もしかしてご飯食べてなかったとか？」
「ここ２，３日全然食べてなかった」
「お腹空いてたならなにより」
「ぼくの名前はけんた。きみは？」
「タロ助だ」
「タロ助、いい名前だね」
「そっか〜、初めて言われたけどな。それよりさ、なんでこんなことしてくれるんだ」
「なんでって、それは・・・」
「お前たちは俺たちの敵じゃないのか」
「違う、むしろ仲間だ」
「嘘だ、お前たちは俺たちを殺して食べているじゃないか」
「それは一部の人間がやることで全てじゃない。ぼくが君を助けたように」
「別に頼んだわけじゃないし」
「ぼくはわかんないんだ。こんなこと言ってもしょうがないけど、人殺しはいけなくてどうして動物を殺すことはいいんだろうって。そんなの結局殺してることに変わりないじゃないか」
「かもしれねぇ。だから父ちゃんが殺された時、俺が母ちゃんを守るんだって思ってやったけど、いざって時にびびっちまって何もできなかった。何も・・・、むしろ母ちゃんに助けられちまった」
泣くタロ助に、ぼくはなんと声をかけたらいいか分からず、ただ見ていることしかできなかった。でもただ見ているだけなのも辛くなってきたので、肩をさすることにした。
一通り泣き終わったタロ助。ぼくがなにか声を掛けようとすると
「ありがとう、お腹もいっぱいになったし、もう帰るわ」
「帰るって山へ？」
「それ以外にどこに帰るってんだよ」
「ここにいなよ。山よりは安全だよ」
「世話になるのも悪いしさ、いいよ」
「足の状態だってまだ完全に良くなったわけじゃないし、休んでいったほうがいいよ」
「その気持ちだけで十分」
山へ帰ろうとするが上手く歩けず倒れるタロ助。
「無理しないで、２，３日うちにいればいいよ。そしたら山に帰っていいから」
「２，３日だけでいいのか」
「うん、ずっといてってわけじゃないし」
「わかった、それまではここにいるよ」
「それじゃ、ぼくは疲れたから今日はもう寝るよ。タロ助もゆっくり休んでね」
「わかった、ありがとな」
２，３日って言ったけど、本当はあんなとこへ帰したくなかった。猟師たちにいつ殺されてもおかしくない環境だったからだ。
それからぼくは、タロ助にえさをやったり、話したりの日々を送った。そうするうちに３日がたった。
「今日までありがとな。体も元気になったし、山に帰るよ」
「ずっとここにいるってのはできないのかな」
「それは無理だろ、お前にだって親はいるだろ、俺みたいなのは認めないよ」
「だとしても山に帰るのだけは」
「危ない場所には違いねぇ。ただあそこは俺が生まれたとこなんだよ。わかってくれ」
「猟師たちにあったらどうするんだ」
「その時は猟師たちの首元にかぶりついて俺の強さを見せてやる」
「そんなことしたって・・・」
「ああ意味はないかもな。多分死ぬだろうし」
「だったらここにいてよ」
「それはできねぇ。山で生まれ山で死ぬ、俺はクマだ。人間とは違う。でもよかったぜ。人間にもこんないいやつがいたってな」
「どうしても山に帰ると言うならぼくもついてく」
「お前は来ることないだろ」
「行くったら行くんだ」
「頑固だな」
「タロ助だけには言われたくない」
夏休みぼくは近くの山にセミを取りに出かけた。出かけるときにお母さんから
「山のクマには気をつけるんだよ、いつ襲って来るかわからないから」
「わかった、気をつける」
そう言われてぼくは出かけた。よくクマは怖いものだから気をつけたほうがいいと言われるけど、本当なのかな。まあ襲われた人とかいるからそうなんだろうけど。
セミ取り網を持ってセミの鳴き声をたよりに探していると、猟師たちの話し声が聞こえてきた。
「昨日も大きいのが獲れましたな」
「ああ、あのクマか、その後食べたがあれはうまかったな」
「これこそ猟の醍醐味ですよね」
「動物を捕まえて食す、これこそ猟師の楽しみよ」
ぼくは話を聞いてふと考えた。動物を捕まえ殺し食す、殺すのも怖いのにそれを食べるなんて。ぼくには理解できなかった。気を取り直しセミ取りを再開する。一つ一つの木を見ていたらミンミンゼミがとまっているのを見つけた。ぼくはすぐさま網をかけた。すると網の中にセミが入り捕まえることができた。
「ああなんだよこれ」
「セミ取り網だよ」
「なんだお前」
「ぼくかい、ぼくは人間だよ」
「そんなこと知ってる、なんで俺の言葉が分かるんだよ」
「ぼくにもわかんない、気がついたら動物の言葉が分かるようになってた」
「ならなおさらこんなのやめろよ」
「捕まえるのが楽しみになってね」
「お前もあの猟師たちと変わんないな」
「違うよ、全然違う」
「捕まえるってことに変わりないじゃないか、話せるだけ余計たちが悪い」
「そんなこと言わないでよ」
「とにかくこんなことやめることだな」
「えっ、ちょっと」
網から抜け出し出て行くセミ。セミを逃がしてしまったことよりも猟師たちと一緒と言われたのが気になっていた。あんなのと一緒なわけ無い。あいつらは殺すんだぞ、でも捕まえられた方からすれば何されるかわからないって意味では一緒なのかなとも思ったりする。すっかりやる気のなくなったぼくは家に帰ろうとした時、泣いている子グマが林の奥にいるのを見つけた。その子グマが気になったぼくは子グマがいる場所へ向かった。その子グマは悲しい表情をしていた。ぼくは気になって声をかけてみた。
「どうしたの？ 大丈夫？」
「かあちゃん、死んじまった。へへへ」
必死に笑顔で話そうとする子グマにぼくは何も言えなかった。もしかしてこの子グマの親がさっき猟師たちが言ってたやつじゃないかと思ったりした。
「昨日猟師にやられたんだ、かあちゃんいつも言ってた、お前は男の子なんだから強くなきゃダメだって、でもこんなの・・・、お前人間じゃないか、何しに来たんだよ、俺も食うつもりか」
「そんなつもりじゃ」
「かあちゃんだって死んだんだ、俺がかあちゃんのかたきを」
子グマはぼくの方に向かおうとしたが、足を怪我していたらしく、その場に倒れた。
「大丈夫？」
「なにこんなの大した傷じゃ」
動きづらそうにしている子グマ。ぼくはなんとしてもこの子グマの力になりたいと思った。ぼくはお母さんもお父さんも元気だから、お母さんを失ったこの子の気持ちなんてわからないし、共感もしてあげられないし、むしろこの子には迷惑な話だろうとも思うんだけど、でも、それでもなにかしたい、そんな気持ちが芽生えて、ぼくはこの子グマを背負い、家まで連れて行くことにした。家に帰ればこの子の怪我を治すことができる、そう考えたからだ。ただ子グマは背負ってすぐ激しく抵抗した。そのたびに背負い直しては進むを繰り返した。段々抵抗する力もなくなり、気がついたら寝てしまっていた。
家に着くとぼくは家族に見つからないように救急箱を取り出し、子グマに手当をした。また目が覚めてからはご飯もあげた。
「うまい、うまいよ」
笑顔で食べる子グマ。
「もしかしてご飯食べてなかったとか？」
「ここ２，３日全然食べてなかった」
「お腹空いてたならなにより」
「ぼくの名前はけんた。きみは？」
「タロ助だ」
「タロ助、いい名前だね」
「そっか〜、初めて言われたけどな。それよりさ、なんでこんなことしてくれるんだ」
「なんでって、それは・・・」
「お前たちは俺たちの敵じゃないのか」
「違う、むしろ仲間だ」
「嘘だ、お前たちは俺たちを殺して食べているじゃないか」
「それは一部の人間がやることで全てじゃない。ぼくが君を助けたように」
「別に頼んだわけじゃないし」
「ぼくはわかんないんだ。こんなこと言ってもしょうがないけど、人殺しはいけなくてどうして動物を殺すことはいいんだろうって。そんなの結局殺してることに変わりないじゃないか」
「かもしれねぇ。だから父ちゃんが殺された時、俺が母ちゃんを守るんだって思ってやったけど、いざって時にびびっちまって何もできなかった。何も・・・、むしろ母ちゃんに助けられちまった」
泣くタロ助に、ぼくはなんと声をかけたらいいか分からず、ただ見ていることしかできなかった。でもただ見ているだけなのも辛くなってきたので、肩をさすることにした。
一通り泣き終わったタロ助。ぼくがなにか声を掛けようとすると
「ありがとう、お腹もいっぱいになったし、もう帰るわ」
「帰るって山へ？」
「それ以外にどこに帰るってんだよ」
「ここにいなよ。山よりは安全だよ」
「世話になるのも悪いしさ、いいよ」
「足の状態だってまだ完全に良くなったわけじゃないし、休んでいったほうがいいよ」
「その気持ちだけで十分」
山へ帰ろうとするが上手く歩けず倒れるタロ助。
「無理しないで、２，３日うちにいればいいよ。そしたら山に帰っていいから」
「２，３日だけでいいのか」
「うん、ずっといてってわけじゃないし」
「わかった、それまではここにいるよ」
「それじゃ、ぼくは疲れたから今日はもう寝るよ。タロ助もゆっくり休んでね」
「わかった、ありがとな」
２，３日って言ったけど、本当はあんなとこへ帰したくなかった。猟師たちにいつ殺されてもおかしくない環境だったからだ。
それからぼくは、タロ助にえさをやったり、話したりの日々を送った。そうするうちに３日がたった。
「今日までありがとな。体も元気になったし、山に帰るよ」
「ずっとここにいるってのはできないのかな」
「それは無理だろ、お前にだって親はいるだろ、俺みたいなのは認めないよ」
「だとしても山に帰るのだけは」
「危ない場所には違いねぇ。ただあそこは俺が生まれたとこなんだよ。わかってくれ」
「猟師たちにあったらどうするんだ」
「その時は猟師たちの首元にかぶりついて俺の強さを見せてやる」
「そんなことしたって・・・」
「ああ意味はないかもな。多分死ぬだろうし」
「だったらここにいてよ」
「それはできねぇ。山で生まれ山で死ぬ、俺はクマだ。人間とは違う。でもよかったぜ。人間にもこんないいやつがいたってな」
「どうしても山に帰ると言うならぼくもついてく」
「お前は来ることないだろ」
「行くったら行くんだ」
「頑固だな」
「タロ助だけには言われたくない」