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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅰ

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「少し時間ある? ちょっとうちの連中と話していったらどうかな。くだらない雑談でもして人間関係を作るのも、調整業務のひとつだよ」
 彼は美紗に優しげに話しかけると、「直轄ジマ」で末席に座るチーム最年少らしい航空自衛官に目配せをした。同じ空自でも半袖シャツのラフな夏服を着る若い彼は、素早く席を立つと、近くの窓際に無造作に置いてあった折りたたみ式のパイプ椅子を一つ持って戻ってきた。場にいる面々に促され、美紗はシマの端に広げられた椅子に恐る恐る腰かけた。それを見届けた第1部長は、太めの直轄班長とイガグリ頭の先任を連れて、部長室に戻っていってしまった。

       ******


「いっとうくうさ? それが日垣さんの役職?」
 征は、その言葉を初めて聞いたと言って、藍色の目をくるりと動かした。
「階級のひとつです。あまり一般的な言葉じゃないかもしれないですね。大佐に相当するんですけど……」
「大佐? へえ。日垣さん、なんかすごいんだ! アフリカのどっかで、なんたら大佐って人の国がありましたよね。あ、でもその人、殺されちゃったんでしたっけ?」
 征は、そこそこ国際情勢を承知しているようだった。しかし、肝心の部分の認識が全く的外れだ。
「その『大佐』とはちょっと違いますけど……」
 美紗は、少し困った顔で、自衛隊独特の階級について説明した。
 米軍など海外の軍隊では、佐官は下から「少佐」「中佐」「大佐」と称されるが、自衛隊の場合は、それぞれ「3佐」「2佐」「1佐」と呼称される。尉官なら、同様に、少尉は3尉、中尉は2尉、大尉が1尉に相当する。正式には、陸海空それぞれの所属を合わせて明示し「1等空佐」などと四文字で表記されるが、日常の会話で階級を持つ個人に言及する時は、より短い「1佐」などを敬称代わりに使うのが通例となっていた。
「じゃあ、日垣さんは、職場では『ひがきいっさ』って呼ばれてるんですか?」
 美紗が頷くと、征は、ますます興味津々といった顔で、目をくるくるとさせた。
「なんか面白いなあ。じゃあ、『1佐』という階級の人で、苗字が小林さんだったらどうなるんです?」