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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅰ

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「お前ら、さっきからうるさいぞ!」
 突然の怒鳴り声に、美紗と美紗の所属組織に対する不満を並べ立てていた制服幹部たちは、はっと口を閉じた。直轄チームの「シマ」から四、五メートルほどしか離れていない所にある統合情報局第1部長室の入り口に、海上自衛隊の白い制服を着た縦横に大きな男が立っていた。肩に、黒地に金色の線が三本入った2等海佐の階級章を付けている。
「何を騒いでる。こっちは全然話ができないじゃないか!」
 直轄チームの班長を務めるその男は、恰幅のいい体をますます膨らませるようにして、「直轄ジマ」にずかずかと歩み寄ってきた。そして、静まり返った面々をさも苛立たしげに睨み付けると、不機嫌そうな顔をしたイガグリ頭の隣に立っていた美紗を、鋭く一瞥した。
「やっぱりアンタが来てたのか。すぐ分かるよ。必ず何か揉めごとを持ってくるからな。今度は何だっ」
「明後日の統合幹部会同で使う予定だった参考資料、八割も出来てないそうなんですよ。どうします?」
 松永が立ちあがり、直轄班長に耳打ちした。
「出来てないって、何でだ!」
 荒々しい声が飛んで、美紗はますます小さくなった。白い制服が美紗に詰め寄ろうとすると、その後ろから声をかける者がいた。航空自衛隊の制服を着た男だった。右胸に「統合情報局第1部長」の名札が付いている。水色の長袖シャツに濃紺のネクタイを締めていながら、その空自の男は不思議と涼しげに見えた。スラリと長身なシルエットがそう見せているのかもしれない。
「比留川2佐が言っていた噂のカウンターパートというのは君? ずいぶん若そうだね。入って何年目?」
「三年目です」
 美紗は、第1部長に促されるように、自分が二年と数カ月前に新卒で防衛省に入ったことを話した。その場にいた全員が、「そうかあ」とため息にも似た声をあげた。冷ややかな視線が、にわかに同情的になった。
「それじゃあ、滅茶苦茶な調整してくれるのも当然だな。だいたい何で三年目のあなたがこんなことやってる? 本来は佐官クラスの仕事だ」
 先ほど美紗にひとしきり小言を言っていた松永の語調は、急に優しくなった。
「あなたまだ二四、五くらいだろ? そんな若いのが、隊に戻って、科長連中に『仕事もらったから人出せ』って言ったって、まずすんなりOKしないよ。誰なんだ、君の上官は」