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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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こちらに俺の昨日が流れてません?

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昨日コンベアの周りには人だかりができている。
まるで空港の手荷物を待つように。

「昨日検査が終わった荷物はコンベアで流れてきます。
 どなた様もお間違えないよう、昨日をお取りください」

コンベアが動き出して、昨日が流れてくる。
並んでいた人々は自分の昨日を手に取って帰っていく。
俺の昨日はまだ来ない。

「……といっても、飯食って寝るだけの
 なんの変哲もない普通の昨日だけどなぁ」

1ヶ月もすれば何をしていたか忘れるほどありきたりな昨日。
そんなものなら、別に回収しなくてもいい気がする。

なんて考えていると、昨日職員に誰かがつかみかかっていた。

「ちょっと! 私の昨日が流れてこないんだけど!」

「あなたの昨日には、危険物が認められました。
 危険な思想や行動をした"昨日"はこちらで没収させております」

「それじゃ……私の昨日は……」

「なかったことになるだけです」

昨日検査が始まってからというもの、犯罪は激変。
少しでも犯罪をした昨日が検出されれば、そのまま没収される。
コンベアから昨日を取り戻さなくちゃもうなかったのと同じ。

しかし、遅い。

「あの、俺の昨日がいつまでも流れてこないんですが。
 もしかして、俺の昨日も危険なものがあったんですか?」

「えっ? いえいえ、あなたの昨日はいたって普通ですよ」

「でも流れてこないんです」

「そういわれても……もしかして、別のレーンに入ってしまったかもしれません」

「え゛っ」

それは事実上「昨日の紛失」を意味していた。
アホほどあるレーンをしらみつぶしに探すわけにいかない。
失って困るほどの昨日ではないけど、
昨日を失うことで不都合が起きないかが心配だ。

そこに、大きな昨日が流れてきた。

「……そうだ」

俺は誰のか知らないその昨日を手に取った。

 ・
 ・
 ・

『佐藤君? 聴いたわよ、大富豪になったんだって?』
『ずっとあなたのことが気になってしょうがないの』
『この番号に連絡してね、絶対よ』

「うははは、モテモテだぁ!」

俺があの時取った「昨日」が、
まさか億万長者の昨日だったとは。

金は使いたい放題、女にはちやほやされ放題。

「まったく最高だぜ!」

すでに幸せの絶頂にいながらも、
俺の頭は次の幸せに考えをめぐらせていた。

「金は捨てるほどあるんだから、
 今ならどんなことも怖くない……ようし」

俺は昨日コンベアの最前列に向かった。


コンベアが動き出すと、まるで自分のだというように
ごくごく自然に「昨日」を手に取った。

金はいくらでもある今となって求めるのは、
"新しい刺激"に他ならない。

誰かの昨日をこっそり奪って、明日を俺のものにすれば
金を持ちつつも他人の経験すべてを吸収できる。

それはつまり……。

「金で買えないことも、手に入るってわけだぜ!」

俺が別の誰かの"昨日"を開いた。



>昨日、地球を責めてくる怪獣と戦いました。



昨日を見てみて、背筋が寒くなった。
この昨日はいったい誰が……いや、それより。

「俺が怪獣になんて戦えるわけないだろぉぉ!」

中肉中背のごくごく普通の一般人が、
明らかに規格外のモンスターと戦うなんて不可能だ。

慌てて検査員のところへ行く。

「あの! この昨日、いらないです!
 もう一度コンベアに流してください!」

検査員は昨日をチェックすると、困ったような顔になった。

「あれ? なんで危険物が紛れているんだ?
 あんたね、戦うとか危険な昨日は持ち込まないでくれ」

「俺のじゃないんですよ! 助けてください!
 このまま、この昨日が本当に実現してしまう!」

「知りませんよ、そんなこと」
「そこをなんとか!!」

俺の必死な勢いに検査員はついに根負けした。

「わかりましたよ。この先にあるレーンに行きなさい。
 そこではどんな昨日でも流してもらえるよ」

「助かった! ありがとう!」

監視員の言葉をうのみにして別のレーンへ昨日を流した。
あとは偶然を装って別の誰かの昨日を取れば終了だ。

「よし、これだ」

目の前に流れてきた昨日を手に取る。
昨日を開いてみてぞっとした。

この持ち主は昨日、強盗に入っている。

慌ててレーンに戻し別の昨日を手に取る。
どっかの誰かの犯罪を俺がかぶるなんてまっぴらだ。

「ひっ」

今度手に取った昨日はホームレスの昨日。
明日が来る恐怖におびえているだけの毎日の一部だった。

俺はやっとわかった。
ここのレーンに流れる昨日は、廃棄のつもりで流されている。

「ダメだ、やっぱり別のレーンに移って……」

「お待ちください。昨日を持たずにレーンを出ることは禁止です。
 それとも、あなた誰かの昨日を奪うつもりですか?」

「そそそ、そんなわけ……ないでしょ……」

もうこうなったら怪獣でもなんでも戦ってやる!
あの昨日であれば、このレーンに流れる昨日ではマシな方だ。

が、いつになっても昨日は流れてこない。

「まさか……」

絶望感がわいてきた。
俺のようなことを考える奴がいたんだ。

俺が流した昨日を誰かが回収したに違いない。

もうこのレーンに残っている、
捨てられた昨日から俺は選ばなくちゃならない。

犯罪者になるか、ホームレスになるか、はたまたもっと最悪か……。

「ああ……どうしてこんなことに……」

金なんて要らない。
身の丈に合った幸せでいい。
普通の、当たり前の日々に戻りたい。




「あっ……!」

流れてくる昨日に見覚えがあった。
あの色、あの日々、間違いない。

「このレーンに紛れていたのか……!」

奥から「紛失した昨日」がゆっくり流れてきた。
飯って寝るだけの、普通だけど大切な昨日が。