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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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イッツ・ア・スローウワールド

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午前8時に家を出て、8時10分に缶コーヒーを買う。
飲みつつ駅まで歩いて8時20分。
8時25分に電車に乗って9時05分に会社につく。

今日も1分1秒狂いない完璧な予定。

『トラブルにより電車到着が5分遅れております。
 今しばらくお待ちください』

「はあああああ!? ふざけんなっ!!!」

俺の予定が全部くるってしまった!どうしてくれる!

9時10分に会社につけば、PCの起動に10分かかるから、
仕事開始するのがいつもより15分遅れてしまう。
そうなれば会議の開始までの資料作成が間に合わなくなる。

他のトロい無能どもとは違って、
俺は1分1秒無駄にできない世界で生きているんだよ!!

Time is no money

俺にとっての時間は金よりも尊い。


「……遅いな」

電車への文句を考えていたが、
一向に電車が来ないことにまたムカついてきた。
体感ではもう5分どころか20分は過ぎている。

時計を見てみると、時間が1分もたっていない。
それどころか秒針もわずかしか動いていない。

「なんだ……時間がゆっくり動いてる!?」

周りを見てみても、普通に動いているのは俺だけ。
他の人は完全に静止しているように見える。

一流のスポーツ選手はボールがゆっくりに見えるというが、
一流の企業戦士も頭の回転の速さがそうさせたのだろうか。

「っしゃあ!! これで仕事片付けられるぜ!!」

ここまで秒針が10秒も動いていない。



仕事を片付けてもまだまだ時間はある。

「まだ5秒も過ぎていないのか。
 もっとゆっくりやってもよかったかな」

電車到着までの5分。使える時間はまだある。

「ようし、もっと時間をゆったり過ごすか!」

朝は忙しいので朝食も取っていなかった。
ホームをいったん降りて、食事を取る。

普段なら、食べるというより押し込むという形だが
今日に限っては時間を使ってゆっくりと噛みしめた。

「へぇ、サンドイッチってこんな味がしたんだな。
 普段は全然気づかなかった」

時計を見てもまだ3秒もたっていない。

「このぶんなら、一眠りしても問題なさそうだな。
 寝過ごすってこともないだろう。ふあああ」

そのまま駅のイスでひと眠り。
ほぼ時間が止まっているような世界なので人目も気にならない。



「……くああ。さて、何分経ったかな」

頭から睡魔の霞が消し飛ぶほど寝た実感があった。
だけど秒針はまだ10秒しか過ぎていない。

5分経つまでにまだ時間はある。

やることが特にないので、
とりあえず今日会社でやる予定だったすべての仕事を片付けた。
時間が過ぎるようにわざとゆっくりと。

それでも時間はまだ過ぎない。


寝たり起きたりを繰り返し時間を過ごす。
それでもまだ時間は過ぎない。

スマホでゲームをやりこんで時間をつぶす。
それでもまだ時間は過ぎない。

ついにやることが思いつかなくなってもまだ1分経過。

残り4分。

「ウソだろ……もうやることなんてないのに……」

 ・
 ・
 ・
 ・

少しも時間が経過してないと知るのが怖くて
時計も見なくなっていた。

あれだけ求めていた時間が、今はこんなにも恐ろしい。

「ああ……普通の……普通の時間に戻りたい……」

ストレスで髪の毛は白くなり、
身体はもう何年もここで過ごしたように疲弊していた。

体を動かすことも頭で考えることもおっくうになり、
今はただ植物のように時間を過ぎるのを待つ。

 ・
 ・
 ・

5分が経った。

もう何十年駅のホームで過ごしたんだろう。
ついに、電車が到着したとき
この世界にやっと訪れた"変化"が嬉しくて仕方ない。

「ああ……あああ……」

その瞬間。
一気に時間が動き出した。

『ーーー。------。----』

ものすごい速さでアナウンスが流れる。まるで聞き取れない。
モタついていると、周りの人がどんどん電車に乗る。

その歩みの速さはまるで走っているようだ。
とてもついていけない。

「ま、まさか……今度は俺以外の時間が早まったのか!?」

時計を慌てて見る。
違う。
時間が早くなったんじゃない。

「ーーーー。----」
『ーーーーーーー。---』
「ーーー。---。------!」
「ーー! ---!!!」

異常な速度でしゃべる人たちの会話は聞き取れない。
瞬時に動く人の波にとてもついていけない。

だけど、俺以外はみんな当たり前にやっている。


「俺が……俺の方が……遅すぎるのに慣れて……」

すでに1時間が経過した。