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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 24

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第85章 堕騎士の清浄なる最期


 瘴気に包まれ、太陽がその姿を見せなくなった空を仰ぎ見て、銀髪の騎士は地に倒れていた。
 彼の戦いは全て終わった。愛した少女のため、仇であるデュラハンを討つために修羅の道を進んだ騎士、ヒースは敗れ、全て終わった。
「終わった……何もかも……」
 復讐を遂げることも叶わず、戦いに敗れた彼は生きる力も失い、ただ消滅を待つのみである。
「……マリアンヌ」
 ヒースは返ってくるはずのない者の名を呼ぶ。
 デュラハンを仇として、かの大悪魔を倒すための力を得るために手段を選ばずにただ血路を拓いてきたヒースは、既に転生の道から外れ、あとは死神の腹へと収まる時を待つだけであった。
 ヒースを打ち破った者達が歩み寄ってきた。
「ヒース……」
 シンは腰元まで届きそうな黒髪を揺らしながら近付き、片膝をついてヒースへと寄り添った。
「……貴様、シンか。天界で最強を謳われた俺を倒すとは……、強くなったものだな……」
 かつてシンはヒースと刃を交えたことがあった。その時のヒースはデュラハンに付けられた鉄仮面に力を奪われていたが、それでもシンを圧倒していた。
 そんな彼が今や、自らを消し去ろうとしている。ヒースは感嘆した。
 シンは武器を手に持っている。きっととどめを刺そうというつもりなのだろう、とヒースは死を覚悟する。
 しかし、シンはヒースの予想とまる違い、武器をしまい、戦意のない様子を見せる。
「……どうした? とどめを刺そうというつもりではないのか?」
「……その必要はないさ」
 ヒースの体は既に、死神に取られ始めていた。体の随所が半透明化しており、放っておいてもやがて消滅が訪れる。
「ヒース、どうしてソルブレードを持ちながら、デュラハンの手先になっていた? お前ほどの意志を持つ者が魔に堕ちるはずがない」
 ヒースはデュラハンに強い憎しみを持ちながら、その実手下として働いていた。シンにはこれがどうにも解せなかったのだ。
「あたしも気になっていたわ。悪魔の手先にしては、あなたの目はとても澄んでいた。その体じゃ辛いでしょうけど話してもらえないかしら?」
 ヒナも真実を求めた。
 ヒナがヒースと戦った時、魔に堕ちた者にしてはその性質がずいぶん異なっていた。
 不意打ちや自滅を狙わず、ヒースはヒナ達がやって来るのを待ち、そして正々堂々と勝負をしかけた。
 ヒースの剣はとても真っ直ぐであった。そんな剣の使い手が何故デュラハンなどに与しているのか。
「いいだろう、もとより隠し立てすることではない、教えてやろう……」
 ヒースは虚ろな瞳で静かに語り始めた。
「……俺は神の創りし存在、神子と呼ばれる天界の存在だ。俺は天界で聖騎士団の副長をしていた」
 ヒースはデュラハンによって魔の存在へと変えられる前、どのような役目を持ち、どのように過ごしてきたか全て話した。
「天界最強の剣士、左剣聖、そんな異名を持っていたが、そんなものはどうでもよかった。俺は神々、そして天界に住まう全ての者を守るために日々自らを鍛え続けた……」
 ヒースは自身の事は一切気にかけることなく、天界を守ることだけを考える、真っ直ぐな男であった。
 友らしい友の一人もおらず、酒も嗜むこともなく、修行以外の唯一の趣味は書物を読むことなど、恐ろしいまでに無欲であったとヒース自身自嘲する。
 しかし、他者から見れば全くつまらない日々を送りながらも、ヒースはそれで満足であった。ただ天界の守護を務める、ヒースの望みはこれただ一つであった。
「……ふふ、思えば俺は、本当につまらない男だったのだな。しかし、こんな俺にも、運命の出会いというものが訪れた……」
 ヒースは自嘲しながらも、自らの転機を話す。
「それがマリアンヌって子の出会いね……」
 ヒナは確信して言う。
「あの娘は、本当に不幸な運命を辿っていた。生前、現世では生まれながらに病を持ち、僅か十六歳で死を迎えた。そして天界ではたったの一年でその命に終わりを告げた。デュラハンの魔の手によって……」
 ヒースは悔しそうに歯噛みした。
 天界で寿命を迎え、新たな人として現世に転生する前に死ぬことは、その瞬間に魂が消滅し、存在そのものが消えることを意味していた。
 この理に則するならば、マリアンヌはデュラハンの凶刃に倒れ、転生の道は完全に断たれ、存在が消え去っているはずだった。
「だが、彼女にとっては幸か不幸か、あの時に倒れるのが天界での運命だったのだな……」
 シン達はヒースの意図が分からなかった。
「ヒース、何を言っている?」
 シンは訊ねた。
「マリアンヌは転生することができたのだ。新たな人の子として、な……」
 シン達の疑問がすぐに氷解することはなかった。しかし、ヒースの言葉が紡がれるごとに、だんだんと彼の意思が明らかとなっていった。
「最初見たとき、俺は我が目を疑った。しかし、次第に予想は確信へと変わっていった」
 ヒースには昔、聞いた話があった。
 現世での時が短かった者は、天者でいる時間も短くなり、早くに現世に転生する事ができる、と。
 つまり、早世した者ほどすぐに転生の時が訪れるのである。
 ヒースはメアリィへと目を向けた。
「君は、メアリィと言ったな。恐らく、いやきっと、君はマリアンヌの生まれ変わりだ……」
 突然の宣告に、メアリィだけでなくシンとヒナも驚きを見せた。
「私が……?」
「初めて見たとき、驚愕を隠しきれなかった。その木々を写し出した水面のごとき髪の色、そして透き通るような肌、仲間を庇おうとした時に見せたあの強い瞳。まさに瓜二つだった……」
 長らく驚きという感情を忘れていたヒースであったが、その感情をあらわにしたときの様子はヒナが捉えていた。
 本当に僅かな反応を見せるのみだったため、ヒナほどの実力者でも彼が何に反応したのか分からなかった。
「……あの時妙な動きをしていたのはそのせいだったのね」
 ヒナはさらに、何故戦いの最中ヒースが、メアリィをダメージから守るような真似をしたのか、その理由が分かった。
「メアリィ、こちらへ来てくれないか? ……なに、君にも二人にも危害を加えるようなことはしない」
 メアリィは少し戸惑い、シンとヒナの顔を見た。二人は揃って頷いた。行ってやれ、と言わんばかりに。
 メアリィはヒースに歩み寄り、地に膝をついた。するとヒースは懐から何かを取り出し、メアリィへと差し出した。
 それはシンとの激戦の途中に落としていた銀細工のペンダントである。
「受け取ってくれ。これは俺がマリアンヌに贈ったもの……。マリアンヌが転生した君に持っていてほしい……」
 メアリィはマリアンヌの生まれ変わりだというが、メアリィにそんな意思があるはずがなく、ヒースの大切な人の遺物を受け取れるはずもなかった。
「そんな大切な品物、私には受け取れませんわ」
「いいから持ってみてくれ。君がマリアンヌの生まれ変わりならば、ペンダントにこもったマリアンヌの意思が君になんらかの反応を示すはずだ」
 ヒースは手を震わせながら、メアリィが受け取ってくれるまで差し出し続けた。
 その様子を見ていたたまれなくなったメアリィは、ついにペンダントに手を伸ばした。その時だった。
「これは……!?」