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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 24

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83章 デモンズセンチネル


 大悪魔デュラハンがウェイアードに降臨し、一月が過ぎた。
 この一ヶ月に、ウェイアードは大悪魔による大打撃を受けたが、その中でも際立った影響を受けたのが、大ウェスト海北部、アテカ大陸であった。
 デュラハンの居城と化したアネモス族の神殿の周りは、最も魔界に近い状態となっており、世界に蔓延する瘴気の毒性もかなり強くなっていた。
 その強烈な瘴気は、村一つを瞬く間に滅ぼした。古代、アネモス族と親交の深かったギアナ村である。
 ハモやイワンの故郷といえるこの地は、瘴気によって腐敗し、活性化した魔物だけが存在する魔界と化していた。
 そしてこの地には、風を司るエレメンタルの灯台、ジュピター灯台がある。ウェイアード各地に存在する、灯火を灯す事で錬金術を得られるという、神の創りし灯台である。
 その錬金術を暗黒化させ、暗黒錬金術を狙うデュラハンは、自身のしもべに、エレメンタルの灯台に代わる錬金術の礎を築かせようとしていた。
 そしてデュラハンのしもべ、デモンズセンチネルは、四つのエレメンタルの内、風を担い、ジュピター灯台に程近いギアナの地に礎を築いていた。
 センチネルは、アテカ大陸の入り江に一人佇んでいた。
 深緑の鎧に身を包み、顔には決して外れることのない鉄仮面を被り、その表情は全く窺い知れない。
 漆黒の刀身の剣を左手に持ち、静かに立っていた。
 暗黒錬金術の礎を守護せよ。
 デュラハンより命を受け、センチネルはそれに従い、礎へと通じる入り江を守備していた。
ーーデュラハンは必ず……ーー
 センチネルはデュラハンの配下であるが、同時に彼にとって倒すべき仇敵でもあった。
 力でデュラハンを上回ったその時、センチネルを縛る枷である鉄仮面とガントレットは外れる。デュラハンの言葉を信じ、センチネルは腕を磨き続けていた。
 そして今、そのための糧となるものが現れる。
 センチネルの前の空間に、深緑色の玉が突如出現した。そして玉が二度鋭い輝きを放つと、玉から光の粒子が解き放たれ、粒子は人の姿をなしていく。
 そして出現したのは、白鞘の刀を腰に差し、袖に赤い刺繍の入った着物に、緋袴をはいた女と、白地のローブを身につけ、緑に近い水色の髪が特徴的な少女であった。
「現れたか……」
 センチネルは剣を握り締める。
「あらあら、お出迎えかしら?」
「そんな、まさかこんな所に敵が……!?」
 驚くメアリィとは対称的に、ヒナは落ち着き払っていた。
「落ち着きなさい、メアリィ。あたし達は戦いにきたんだから、探す手間が省けてよかったじゃない」
 ヒナからは余裕さえも窺える。
「さて……、ん?」
 ヒナは、常人では見逃すようなセンチネルの僅かな違和感のある動きを見逃さなかった。
 センチネルは、思わず口に出そうになった言葉をなんとか止めていた。しかし挙動には出てしまっていたらしい。
 センチネルは心中を驚きに支配されていた。それはメアリィの姿を見たためである。
「どうしたのかしら、まさかいきなり美女が、それも二人現れたものだからドキドキしちゃった?」
 ヒナは強敵を前にしても、持ち前の冗談を言った。当然、彼女の言うような理由ではない。
「ふん……、貴様らが美女かどうかは知らんが、女二人で俺に挑みにきたのは驚いたぞ」
 センチネルは心に浮かんだ動揺を悟られないよう、挑発し返す。
「あら、女だからって甘く見てると、痛い目見るわよ?」
 ヒナは腰の刀を鞘ぐるみ抜き、右手に持つ。
「けど、そこで待っててくれたのは本当みたいね。その先、瘴気の量が半端じゃないじゃない? あたし達がうっかり入り込まないようにしてくれたんじゃないの?」
 ヒナの言うように、センチネルの背後に広がる瘴気の渦は凄まじいものだった。まさに一寸先は闇、という言葉を如実に表したかのように、先はまるで見渡せない。
「この先はもう魔界と言っても過言ではない。貴様らのような人間が少しでもこの先の空気に触れれば、瞬く間に体が朽ち果てる。人の身で来られるのはここまでが限界だ……」
 事実、この瘴気の先にあるギアナ村は、村人一人たりとも残さず腐食させている。センチネルの言葉に偽りなどなかった。
「ふぅん、それなら尚更、あたし達がうっかり入り込んだ方がよかったんじゃないかしら?」
 ヒナは軽口を叩くものの、その目はもう、これから始まる激戦を見据えている。
「確かに貴様の言う通りだ。だが、それでは意味がない。俺の目的は強者と刃を交え、己が腕を磨くこと。そしてデュラハンをこの手で倒す、絶対にな」
 センチネルは切っ先をヒナに向ける。
「さて、おしゃべりはこのくらいにしよう。貴様も女の身でありながら剣士であれば、後は己が剣で語るがいい……」
「そうね……」
 ヒナは納刀した刀の柄に手を当て、いつでも抜刀できるように構えた。
「あたしはヒナ。見ての通り剣士で巫女よ。あなたは……?」
 ヒナは名乗りを上げた。
「ふん、俺はデモンズセンチネル。では行くぞ!」
 センチネルは構えた。両者名乗り上げた事で、激戦の火蓋が切って落とされようとしている。
「メアリィ、下がってて。回復が必要になったら、その時はよろしくね……」
「分かりましたわ、くれぐれもご無理をなさらぬよう……、えっ!?」
 メアリィがヒナとセンチネルから離れたその瞬間、戦いはもう始まっていた。
 二人の神速の剣がぶつかり合う。その速さは、メアリィにはとても捉えきれないほどで、剣閃が更に三、四本走り、二人の動きが止むまで何が起こったのか分からなかった。
 メアリィは呆然と立ち尽くした。そんな彼女に対して、ヒナとセンチネルは素早い動きで互いに間合いから外れる。
 ヒナはゆっくりと納刀した。
「……なかなか変わった剣技を使うのだな。相手を斬る瞬間のみ抜き放つ、鞘と刃の摩擦力を利用した一撃は強力無比。その上攻撃しない限り、決して抜かない事で間合いを悟らせない。ふむ、なかなか理にかなっているではないか」
 ヒナは目を丸くする。
「これは驚いたわね……、まさかほんの数太刀交えただけで、あたしの剣をそこまで分析するなんてね。これはあたしの三代前の先祖様が創始した剣術でね、居合い、って言うのよ」
「なるほど、ずいぶん時の浅い剣技だ。俺が知らんのも当然、か……」
「ふふん、ならあたしの自慢の技、とくとその身で味わいなさい!」
 ヒナはほぼ一瞬の動きによって仕掛け、センチネルとの間合いを詰める。
 ヒナの攻撃は直線的であり、センチネルは迎撃すべく剣を突き出す。
「行くわよ!」
 ヒナは瞬間的にセンチネルの背後に回った。ヒナの姿が残像を残す。
「転影刃!」
 ヒナはセンチネルの背に向けて、斬り上げるように抜刀した。
「ふん……」
 センチネルは大きく前進し、ヒナの一撃を空振りさせた。
 攻撃を外されたヒナであったが、かわされるのを見越していたように、落ち着いて納刀し、もとの構えに戻る。
「……攻め来る敵に反撃せんとする相手の動きを見切り、がら空きの背後に回って斬りつける。悪くない技だ」
 センチネルは振り返る。
「やれやれ、やっぱり効かないか……」
 ヒナは肩をすくめた。