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献身

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30歳記念の同窓会に、旦那とつがいで参加したのは先月のことだった。
旦那は高校生の時の同級生。参加資格もばっちりというわけ。

「お~!ひさしぶりだな恵美、ゆうすけ!元気してたか?」
懐かしいテノールぎみの声に振り向くと、ちびメガネが大きく手を振ってこちらに向かってきた。
「としじゃないか!ひさしぶり!いつだ?そうか、結婚式以来だから、8年前か」
かつて高校生のとき、この三人でよくつるんで遊びにいっていた。私ととしひこが幼馴染で、ゆうすけがそこに入ってきた感じだ。
、、ゆうすけが入ってきたとき、ひどく煙たく感じた時期があったのは、今でも内緒のこと。まぁでも、結局ゆうすけの方とくっついているんだから、人生わからないものだ。

同窓会はつつがなく終わり。そのまま三人で飲みなおすことにした。としひこはひどく上機嫌で酔っており、同窓会を心から楽しんだようだ。
最近どうしてんの?まじで~?やっぱり?なんて感じで雑な話は盛り上がった。としひこ、ちっとも変わらない。こころがゆっくりと、あま~く弛緩していくのを私はぼんやり感じていた。

「なぁゆうすけ、もうそろそろ、例のバラしてもいい?」
唐突にとしひこが切り出す。
「あ、あれ?うわ、やだな。でも、もう時効か」
なに、何の話?
「俺と恵美とゆうすけ3人で海行こうって話しててさ、当日の朝俺がドタキャンしたこと覚えてる?」
あ~、そんなことあったね。結局ゆうすけと二人で行ったんだっけ。結局あれが初めて二人で遊びにいった思い出だ。
「あれフェイク。俺は最初から、お前らが家を出た直後に、キャンセルの連絡をするつもりだったの」
!?
「俺が彼女のためにペアの映画チケット用意したけどさ、ふられちゃったから無駄になっちゃった。もったいないから恵美とゆうすけでいってこいよ、ってのも覚えてる?」
あった。ゆうすけと観に行ったんだ。感動的なラブストーリーで、不覚にも涙したのを覚えている。
「あれもフェイク。そもそも俺には彼女なんていなかった。お前らのためにチケットを用意したんだ。いくつか下見して、恵美が好きそうなのを選んでね」
なんだと?
「神戸土産のチーズスフレをもらったから、ウチに食べにおいでよって、ゆうすけの家に誘われたりもしただろ?」
そうだ。ここのスフレが大好物で、でもめったに食べられなくって。ちょっととまどったけど初めて家に遊びに行くことにしたんだっけ。家にはゆうすけしかいなくって、最初緊張したけど少しずつほぐれてきて。最後はゆったりとした二人の時間を楽しんだ記憶がある。
「あれも準備したの俺。お前が神戸のチーズスフレが好きだって聞いて、片道3時間かけて兵庫県まで行ってきたんだ。お店探すのも苦労したよ。」
他にも、駅で偶然出会ったこと、落ち込んでいたときそばにいてくれたこと、私好みのネックレスの贈り物、私が“運命”だと思っていたことはすべて、としひこの“策略”だった。

「懐かしいな、おい。エンジェルとし様がいなかったら、僕は恵美と結婚できなかったかもしれない」
「あっはっは!違いない。もっと感謝しろよ~」
男どもが妙なテンションで笑いあっている。騙されていたらしい私は、でも怒る気にはなれなかった。ゆうすけはいい男だし、私は今幸せだ。
「ぶっちゃけついでにさ、一つだけ教えてくれないか?とし、なぜとしはそこまで僕に献身してくれたんだ?なんかさ、順番がおかしいと思ってたんだよ」
「ん?」
「ふつうさ、仲のいい親友が恋をしているから応援しよう!なんて感じになるだろう?でも僕とお前は、言ってしまえばただのクラスメイトだったはずだ。なぜ僕にそこまで」
「ん~~~」
としひこは一度、間をとった。
「俺にとってお前はただのクラスメイトだったけど、恵美を好きだということくらいはわかったんだ。で、これはチャンスだと思った。お前は優秀だったし、超がつくいいヤツだったからな。」
ビールを一口あおり。
「ちまたではよくさ、“きみを幸せにするのは俺しかいない”って言葉をよく聞くけどさ。俺はね、そこまで自信家ではないんだ。“きみを幸せにする条件で、俺と一緒にいてくれないか?”って言っているように聞こえてね。その自信も能力もないのにこう言っちゃうのはさ、それはエゴだと思わないか?
幸せにする自信も能力もなかった俺は、それでもなお、惚れた女を幸せにしたかった。どんな手を使ってでも、ね。」

最後に一呼吸おいて、としひこはこう締めた。
「幸せそうでよかった。俺は満足だよ。」
作品名:献身 作家名:えぬむら