小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

ああああああ!平和すぎる!

INDEX|1ページ/1ページ|

 
「……先生、私病気なんでしょうか」

「間違いなく病気ですね」

「平和だと不安で不安でしょうがないんです。
 平和なことが許せなくて、
 毎日なにかトラブルがないか探してしまうんです」

「それが『平和恐怖症』なんですよ。
 鎮静剤出しておきますから、なんとか耐えてください」

「はい……」

家に帰ってさっそく鎮静剤を打ってみるも、
ほとんど効き目を感じない。

「ああああ! 平和! 平和すぎるぅ!!」

慌ててテレビのチャンネルを回す。

『動物園でイルカの赤ちゃんが……』

ダメだ。平和すぎる。

『最近話題のスイーツのお店に潜にゅ……』

ダメだダメだ。平和すぎる。


『紛争地帯での難民同士の衝突はなおも続いており……』

これだ!

画面には激しい衝突の様子が映っている。
それを見ているとなんだか心が落ち着けた。

何かしらのトラブルを見ていなければ、
日常生活もままならないなんて……。

「やっぱりもう一度薬もらっておこう」

私は再び病院に行くと医者はやっぱりなという顔をした。

「先生、薬が全然効かないんです。
 平和を感じてしまうと不安で不安で……」

「薬は効き目の薄いあの薬だけです。
 たくさん使えば効果は出ますが、
 副作用のない薬なんてないんですよ」

「でも! このままじゃ私自分から事件を起こして……」

「薬を使いすぎて中毒になるのと、
 克服できるまで手足を拘束され続けるのと
 あなたはどっちがいいですか?」

結局、薬はもらえずに自宅療養ということになった。
平和恐怖症には薬なしでの克服が一番効果があるとのことで。

「しかたない……頑張ろう」

テレビでもつけて症状を和らげよう。
ところが、いくら回しても紛争のニュースはやっていない。

『紛争地帯での映像が視聴者に
 ショッキングであることを考慮して
 地上波およびネットでの配信を辞めました』

アナウンサーは私にとっての死刑宣告を告げた。
どのチャンネルにしても、平和であたりさわりのないニュースばかり。

「どうしよう! これじゃあ平和だって思っちゃう!!」

ふと、一部でスポーツ中継がやっていることに気付いた。

「これだ!!」



それから数日、すっかり症状は影を潜めた。

特にファンでもなんでもないけれど、
スポーツ中継を見ているだけで心が落ち着く。

スポーツは平和だと思いきや大逆転されたり、
心落ち着ける展開がどこにもないのが幸いした。

最近ではゲームなんかも始めたりして、
これも平和恐怖症の緩和にとても効果的だった。

「はぁ、これならもう大丈夫かな」

ところが、スポーツ中継が中断され
海の雄大な映像に勝手に切り替わった。

『スポーツには暴力的な感情を
 呼び起こさせる可能性があるため今後は配信を辞めます。
 心落ち着ける平和な海の映像をご覧ください』

当然、捕食などのシーンは全カット。
みるみる私は気分が悪くなっていった。

「ああああ! 早く早くゲームをしないと!!」

慌ててゲームショップに走るもすでに閉店。


"暴力性を誘発させるため
 ゲームの販売ができなくなりました"


閉まったシャッターには絶望的な貼り紙がされている。

「そ、そんな……」

今やホームレスのたまり場となったショップで膝をつく。

「うーん、ちょっと待っとくれ。
 今の手はいったん巻き戻せないかのぅ?」

ホームレスはどこからか拾ってきた将棋盤を指していた。

「これだ!」

私は将棋盤にかじりついて、名前も知らないホームレスと対局。
みるみる平和恐怖症が薄れていくのが分かった。

よかった。
まだこの世界には症状を和らげるものが残っている。

すると、どこから腕章と警棒を持った人がやってきた。

「貴様なにをやっている! 押収!!」

いきなり将棋盤を押収してしまった。

「ちょっと! なにするんですか!?」

「人の暴力性を誘発させる物は摘発対象だ!」

「ただの将棋ですよ!?」

「元々は戦争を駒に置き換えただけの代物だ!
 チェスもトランプも全部禁止だ!!」

「そ、そんな!?」

逆らえばなにされるかわからない。
私はおとなしく従うしかなかった。

でも、その選択は間違っていた。

「お、おい姉ちゃん大丈夫か……!?」

平和を感じざるを得ない状況になってしまい、
息が苦しくなりどんどん症状が悪化する。

「だっ……だれか……助け……」


 ・
 ・
 ・

病院の診察に再び患者が訪れた。

「その後、平和恐怖症はどうですか?」

「ええ、もうすっかり良くなりました」

平和恐怖症の治療法なんてまだない。
薬もただの点滴だったけれど、
医者としては一応薬を渡さないとダメだった。

「ほ、本当によくなったんですか?」

「はい」

患者の顔色はすっかり良くなって、
これだけ平和な世界でも症状の面影は感じない。

「ちなみに、患者さんは今は何をなさっているんですか?」


「はい。暴力的なものを力づくで取り締まっています。
 とってもスリリングで楽しいんですよ。
 強引に取り締まると症状がすっかり落ち着くんです」