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ヴァリング軍第11小隊の軌跡(仮)

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 9:40



 時計が完全に止まっていた。
「ウッソ!マジ!!」
 市花はテンションが下がるのと同時に怖くなった。時計も止まり、方位磁石も利かない、通信機も持ってない、そして武器はあるが緊急時に冷静になって使えるかどうかはまた別だ。練習と本番は全く以て別物なのだから。もしここで敵と遭遇したら一貫の終わりだろう。とそんな事を思っていたら敵と遭遇した。見た目は筋肉質な大男で反射ゴーグルを付けていて服は蘇芳色すおういろだったので、ヴァリスト軍人ではない事は一目で分かった。



「…あ…」



 市花は全身の鼓動が熱くなり、急に冷汗が出始めた。身体は硬直状態寸前だったのだが“死にたくない!”という強い気持ちが市花の身体を動かした。
 敵の大男は、さすが戦闘のプロで最初の一歩で市花の側まで来てしまいホルスターから素早く銃を抜き市花に向けて撃ってきた。市花は撃つ直前にしゃがみながら右足を大きく前へ踏み出し大男と対になる形ですれ違うようにすり抜けた。
 大男は舌打ちをする。
 きっと市花を瞬殺出来ると思っていたのだろう。
 大男は先程までとは比べ物にならない程の殺気を市花に向ける。少したじろぐ市花だが踏み止まる。
 そして息を整えながら考える。



 …敵は戦闘のプロだ。
 どうすればいい?どうすれば絶対的アウェーを覆せる?武器は回転式拳銃と小型ナイフと爆竹だけ、これでどうやってこの相手に勝てばいい?



 …ダメだ。
 考えれば考える程泥沼にはまっていく自分しか見えない。戦闘のプロ相手に何を考えてもそれを越えられるとは思えない。



 …だったら。
 今はとにかく動くしかない。行動あるのみ。
 だが敵は市花が銃を取り出すのを待ってくれる訳もなく、颯爽と襲い掛かってきた為、市花は避けるのが精一杯だったが右手に掴んだ回転式拳銃をしっかりと握りしめる。敵が再びさっきよりも近距離に近付き、素早く市花の背後を取ったため、市花は鞄の中に再び手を突っ込み爆竹を握りしめ魔法で気付かれないように小さく火を点け、それを敵の大男に投げつけた。



「何!!?」



 そして市花は右手に握りしめていた回転式拳銃の引き金を敵の額を狙って引いたのだった。





(ドン!)





 煙爆竹の煙が晴れる。
 一発的中の即死だった。



「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ……」



 勝つために手段を選んでいられなかったとはいえ、人を自分の手で殺してしまった。市花は荒い息を吐きながらその場に膝を付いた。そしてもう一度敵を見る。瞳孔が開き驚いた顔をしていた。市花は恐る恐る近付き首に手を当てた。脈は止まっていたので開いていた目を閉じてあげた。
 その時、草陰から音がした。
 市花に緊張が走る。



「……誰?」



 草陰から姿を現したのは、市花と同じ軍人学校所属の学生である小百合・ハナだった。
 こうしてますます過激になっていく中、市花は小百合と再会したのだった。