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ヴァリング軍第11小隊の軌跡(仮)

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     ○

 12:45




 市花の面接が終わってから約1時間が経過した頃、小百合の名前が呼ばれた。



「次、軍人学校出身、小百合・ハナ」

「はい」



 小百合は堂々と控え室を出て行った。



「どうぞ」



 小百合は軽く会釈すると中へ入った。
 部屋の中には女性の面接官と椅子が一つだけあった。小百合はドアを閉めるとまず面接官に会釈し、鞄を置いて椅子に座った。



「では、わたしがこれからする質問に嘘偽りなく答えて下さい」

「はい」

「まずあなたの自己紹介をして下さい」

「小百合・ハナ、14歳。軍人学校出身です。私の家は軍人一家です。母は宰相、姉は第一小隊の隊員です。私はそんな二人に憧れてこの学校へ入り軍人を志す事を決意しました」

「あなたの長所と短所を教えて下さい」

「魔法と戦闘なら誰にも負けない自信があります。短所は人付き合いです」

「学校では上手くいっていないのですか?」

「正直に言うと上手くいってないです。皆、私はどうせコネで入れると思っていますから」

「それを聞いてあなたはどう思いましたか?」

「悔しかったです。すべての能力で私の方が上回っているのに、こんな事を言われるのが物凄く悔しかったです。だから実力で受けに来ました」

「心配しなくても実力で選ぶつもりです。では次の質問です。控え室にいたあなたと同世代の生徒や一般から来た人達をみてどう思いましたか」

「すべて含めてライバルだと感じました。でも負ける気もしないと思いました」

「判りました。小百合・ハナ、前へ」

「はい」



 女性の面接官は小百合に一枚の封筒を渡す。



「面接合格です。その攻めで強気な性格はあなたの長所であり、短所でもあります。そして軍という場所は完全な実力世界でもありますが、人とのコミュニケーションは必須です。覚えておいて下さい。たとえ自分がどれだけ優れた才能を持っていても、それを吹き飛ばすような才能を持っている人物もいる。だから決して見た目や上辺の成績に騙されないで下さい」

「…はい」

「その封筒はホテル外で開けて下さい」

「ありがとうございました」



 小百合は面接官に会釈をして会場を出た。

     ○

 17:00




 それから4時間が経過し、面接も終盤に差し掛かった頃、樹音は呼ばれた。



「次、一般から樹音・ヒサカタ」

「ああああ…、は、はい!」



 少し間抜けだったかもしれない。急に呼ばれたのでつい声が裏返り周囲に馬鹿にされたように笑われた。樹音は愛用のトランペットを持って控え室を出て行った。



「どうぞ」

「あ、はい!い、一般から来ました!樹音・ヒサカタです!入ります!!」



 言葉の順序が緊張で滅茶苦茶になってしまった。
ドアを開け中へ入る。部屋の中には面接官の女性と椅子が一つだけあった。樹音はまず席に座るがこの時、樹音はミスを犯した。それは部屋のドアを閉めなかった事だ。



「これからわたしが質問します。それに嘘偽りなく答えて下さい」

「は、はい!」

「ではまず、あなたの自己紹介をして下さい」

「は、はい!!わ、私の名前は樹音・ヒサカタです!14歳です!えっと3年前に亡くなった母が元軍人で私はそんな母の仕事を間近に見た事があって、その姿がとても堂々としていてカッコ良かったので、その、一般も大丈夫だって書いてあったしだから応募しました」

「あなたの長所と短所を教えて下さい」

「私の長所は…わ、分かんないです。あんまり人に褒められた事ってないんで…。短所は物覚えが悪くて、体力無くて、運動音痴で、いつもオドオドしててトロくて…」

「あなたの手に持っている物は飾りですか?」



 樹里は部屋に入って初めて自分の手に持っていたトランペットを見た。



「…いえ、飾りじゃないです。これが私の特技です!」

「今、この場で吹けますか?」

「はい」

「曲はドボルザーク作曲の新世界より・第二楽章です」



 そして樹音はラッパ手としての眠っていた潜在能力を発揮した。
 高らかに、そして鮮やかに響くその音色はすべての者を魅了した。部屋のドアを開けていた為に音が漏れてこの後から面接するであろう受験者達が見に来てしまった。しかし皆樹音に見惚れていた。そしてその音色に聞き惚れていた。ずっと席を立ち上がらなかった面接官がその時初めて席を立ち、窓を開けた。樹音の音色は外にいる者達をも動きを止める程のものだった。すでに合格を貰い一か所に集められていた受験者達でさえ振り向いた程だった。
 市花は息を呑み、小百合は面接官が最後に言った言葉を思い出す。





 ――たとえ自分がどれだけ優れた才能を持っていても、それを吹き飛ばすような才能を持っている人物もいる。だから決して見た目や上辺の成績に騙されないで下さい――




 市花は「凄い…」と呟いた。
 素直に凄いと思った。鳥肌が立つとはこの事だった。そして同時に受験者達は怖くなった。すべてを持っている小百合すらも上回るかもしれない圧倒的な一芸の才能の持ち主が残っている受験者の中にいると知って。

 面接官は席に戻り樹音の演奏が終わると樹音を前へ呼んだ。



「樹音・ヒサカタ。面接合格です」



 そして一枚の封筒を渡す。



「これは…?」

「合格通知のような物です。軍に入る時、これが証明書になりますので失くさないで下さい」

「はい」

「それから、もっと自分に自信を持って下さい。あなたの長所はたくさんあります。そしてその特技を生かす場所もまた軍にはあります。一般の受験者に面接官のわたしがこんな事をいうのはどうかと思いますが、是非待っていますよ。その一瞬で人を魅了出来る圧倒的な才能はあなたの最大の長所であり、武器です。そしてその武器はどんな武器よりも安全で人を魅了する」



 そしてもう一度面接官は樹音に言った。



「合格、おめでとう」と。



 樹音はまたしても声が裏返り「は、はい!」と返事をしたが、笑う者は誰もいなかった。