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こんなに血の似合う奴は見たことねぇなって漠然と 想った

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仕事にはなにも不満は持ってやいなかった。
多すぎるといえば仕事が成功するか否かのスリルだ、とも言えるが別段有っても困らない代物だから構いやしなかった。
単純に職業はなにかと問われれば一応司教と答えるのだが教会でなんやら聖書を開いて教えを説くのではなくて化け物と呼ばれる吸血鬼を浄化するのが仕事だ。……否、浄化と言う程生易しいものなんかじゃなくて人殺しだと指さされれば否定出来ないような汚れ役だった。
給料が弾む、となんとも神に使える者としてはいささか不純な理由で養成学校に入り適性試験でハネられたらそれまでの半ば冗談だったのだが、あの日からかれこれ数年。もう充分に仕事が出来るまでに成長している。
というか教会云々は上司が言っていただけなので怪しいが。
しかも養成学校にしても自分は裏のツテで入ったが本来は捨て子を中心で入学しているし外界とは在学中はずっと面会謝絶だ。その上に卒業試験を受けて合格しないと他殺(表向きはキリスト教関係なので自殺をしてはならないらしい)か合格まで何回何十回も試験を受けなくてはならないといった機密性の塊である。
「仕事しねぇとなぁ……」
煙草を口に銜えながら話し相手もいないままに呟いた。
吸血鬼を懲らしめるのを生業としているものの見つけ次第に抹殺する訳ではなく、飽くまでも世界の隅っこでこそこそ生きている分には生活を保証する事になっている。罰するのは人の血を吸ったり誰か死体を作り上げたりした場合のみ。それ以外では彼ら彼女らとは一切のコンタクトをする事はなかった。
しかしながら今日仕事だと上司に朝早くに叩き起こされ遥々遠路まで引っ張り出されて(こちらの地域には同業者はいないのだろうか)地図片手に動き回っているのだから、この辺にいるのは確実なのだろう。
現地の人に肩に座って寛がれる姿など見せてはならないとジャケットのポケットに入れた得体の知れない生き物が口をぱくぱくと動かしているので耳を傾けてみれば上司からの話が聞こえた。
有名な家の出らしいが仕事をしているイメージをあまり持ち合わせていないので好いてはいない彼だが仕方なしに上司への相応しいであろう対応を上っ面だけでし始めれば今日の相手(獲物とも言うが)の名前を言われた。
その相手は仕事をし始めた頃に殺し損ねた男であって、今日ここまで連れてこられたのは一種の意趣返しが出来るようにという上司がない頭を捻った結果のようだ。
口先ばかりの礼を言えば気分を害しただなんだ文句も聞こえたけれど口を一気に閉じさせて遮断した。
この生物は他の強い生き物に依存して生活をするらしく、依存主は大体生涯を通じて変わらないらしいが、待遇の悪さを同族に漏らして鬱憤を晴らすような危険分子で扱いが面倒だ。しかしながら今考えられている中ではこいつを通して連絡を取るのが効率がいいというのだから仕方がない。
仕事道具である銀の弾丸が装填された銃を鞄の上から撫でれば懐かしいような安心を与えてくれる。消音器がついてるから少し人目を避ければ問題にならない分マシなのだろう、その昔は杭だったらしいし進歩したと言えば進歩したのだと不承不承ながらに納得をした。
嫌だなんだ吼えても現状はてんで変わりやしないので地図に描かれた場所へと向かっていけば、古びた洋館が目の前に現れた。許可もなにもとる価値はないので扉をかってに開いて銃を目の前に構えるようにして館の中へと侵入していく。
蜘蛛の巣がかかったような絵画が所狭しと並んでいて人が住んでるにしては寂しい部屋を闊歩する。今は夕方であるし昼夜逆転な生活を行っている彼らもそろそろ起きる頃だろうと片っ端からドアを開けていれば上の階から悲鳴にはほど遠い雄叫びがした。
何事かと思いそ声がしたであろう先程いた場所の真上にある部屋を発見し扉を開こうとすれば鍵が掛かっているらしく、びくともしないので鞄の中から小型の鉈を取り出して蝶番に向けて振りかざした。
そうすれば金属同士が擦れ合う時に発するなんとも耳によろしくない音と同時に部屋の中へ滑り込むように入る事が出来た。
中には想像を絶する光景が広がっていた。彼らの文化で眠りにつく時に使用する棺には上半身がはみ出たままに蓋をされていてその前には血塗れの人が手に巨大な杭を持って立っている。
棺の中の男は透明に近い硝子の髪に瞳孔が目立つ白に近い光彩と色がない姿は吸血鬼を象徴するもので形相は昔に殺し損ねた獲物そっくりだ。
「……あ?」
どうやら仕事を横取りされたらしいと理解してから棺へ近付こうと革靴の音を慣らせば杭を持った男が振り返った。
月光を浴びてキラキラと煌めく銀髪に隻眼の緑みがかったヘイゼルアイがこちらを溶かしてしまいそうな程に凝視してくる。
カラン、と杭を捨てた男は手のひらにべっとり付いた血痕を赤く爛れたような色をした舌で舐め削っていた。
「……どうしました?」
髪の毛を掻き上げ眼帯で片目を塞がれた男は少女のように甘ったるい声で問い掛けられた。その言葉で我に戻ると身体の後ろのホルスターに突っ込んでいた銃を突きつければ、青年は怖いなぁ、とおどけたように言って床に落ちていた帽子を拾っては被っていた。
「どうも、なにも。……手前、なにしてんだ」
「おいたが過ぎたので躾てあげただけですよ……別に殺す気はなかったのですが、つい」
がちゃ、と安全装置を外して相手の心臓を突き刺す位置に狙いを定めてやれば青年は納得したように一人勝手に頷いていた。
「これはこれは、仕事を妨害してしまったようで」
申し訳ありません、と誠意もなにもない口調で謝罪をすれば銃をものともせずに近付いてきた。
「人の獲物を……!」
「吸血鬼を殺す為に働く聖職者も所詮はワーカホリックと言う事ですね、……そういえば申し遅れました、私はアナタと今度から組む事になるジョーカーと言います」
上着のポケットから委任状なる紙切れを見せられて呆然としていればジャケットから連絡が来ている事を示す音が響いてきて苛々としながら対応をすれば間の抜けた上司の声がした。
苦情の一言でもと捲し立てるようとした矢先に、
「そうそう。……君に相棒が出来たんだった」
ここに居合わせているのではと思わせる程のタイミングでその一言を言えばこちらの制止なんてなんでもないといったように問答無用で通信が途絶えられた。
「……そうかよ。使えるか使えねぇかは今の内はわからないが、駄目だったら放っとくからな」
「そんなつっけんどんになさらなくても。私はアナタの役なってみせますよ」
床に落ちたままの杭を踏みつけて乾いた音を響かせてから一歩一歩、とこちらに近付いてくれば猫のような笑みを浮かべながら俺の手をとって口づけてきた。
訳がわからなくて頭がフリーズする。
「なに、しやがるんだよ」
「別に。……ただ仕える、と証明してみせただけです」
さも当たり前のように話す男の脳天をぶち抜いてやりたくて、銃を頭に突きつけてやればジョーカーは掴み所のない朧のような微笑みを浮かべていた。
だって私はアナタの部下なのでしょう? とさも当たり前のように弁解しつつ射程圏から避けるため、一歩ずれたジョーカーに舌打ちをしてから銃をホルスターへ戻した。