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ゼロ´

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光根



展示された日々にひとつひとつ形をあたえてゆくと、球のまざった菱形がひとつだけ余ってしまう。菱形は情念に光の島を落として、情念は菱形を斜めに転調させる。君はこの菱形に所有されていたのか。

君の肺は絵の中の黒い手に握られている。その絵は君の弟が描いたもので、彼の右目の一部は今もその絵に貼りついている。君は絵の中の笛を吹いていて、その音が僕の足跡を深くする。僕の右手は絵の中に入ったきり出てこない。僕はそんな右手を今日も黒く染めている。

今日も物体の雨が降る。散り敷く物体に吹き抜けられながら、僕は色とりどりの物体を君に向かって速射する。それらが命中するごとに君はどんどん物体になってゆき、目と鼻の区別がつかなくなってしまう。僕は物体になった君しか愛せない。

君の神経の発するなめらかな気焔が、重ねられた僕の背骨の間をながれ落ち、水の空間に接してうつろな思想を降らせる。僕の鼻腔にはひとつの真っ赤な体系が生まれ、君の指先の真っ赤な体系と入り雑じってゆく。僕の皮膚を突き破ることばの群れ。

まずは君から沸騰していった。君のしぐさをあとづけてゆく時間の粉末は、さかんに硬い闇を反転させていった。君には僕の傷が美しい文字に見えたに違いない。僕の傷を模写しながら、君は植物とともに沸騰し続けた。

僕が果物に触れると、僕は果物の分まで重くなった。僕はとうとう海に触れてしまい、海の重さで動けなくなった。僕は遍在する抵抗として魚たちの爆発を妨げたが、君が僕の背中で泳ぐのを妨げることはできなかった。やがて僕は海を排泄した。

朝を解体してできた磁力の平原には君の塊が降り注ぐ。君の呼吸が林の中から発掘されるとき、八番目の君に囁きかける音波がある。僕の体をひろげている白磁の球体から君は生まれ出る。するどく滴下する君の落影からさらに君は生まれ出る。いつしか君が僕になるまで。

君と僕との距離はたえず変形している。君と僕とを通過する水の管があり、僕は君へと名のない元素を送り込む。やがて距離が菱形へと落ち着くと、君と僕との間には光が細やかに根を張ってゆく。僕らはいつしかその根に侵されて、共通の悪を試みるようになる。

作品名:ゼロ´ 作家名:Beamte