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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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犠牲者のつどう居酒屋

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死亡居酒屋はにぎわいを見せていた。

「それで、お前はどんな殺され方だったんだ?」

「ひどいもんさ、レンガで頭を殴られたんだよ。
 家の壁色が気にくわないってだけで」

「これだからサスペンスは……」

推理小説の犠牲者たちは暗い顔と不幸自慢で酒を進める。
死亡居酒屋は、作中で殺された犠牲者たちが集まる店。

「何言ってるんだ!
 俺なんか足を踏まれただけで絞殺されたぞ!」

「こっちはハンガー投げられたってだけで
 火をつけられたんだ! まったくえげつない作者だよ!!」

客たちを作り出した作家は、人気の連載作家。
推理小説のシリーズが長く続いているためにそれだけ犠牲者も多い。
最近では自分を主人公にした小説すら書く始末。

「俺が一番かわいそうだ!」
「いいや! 俺が一番だ!」
「なにをいう! わしが一番じゃ!」

男たちは意地になって声を張り合う。


ガララッ。


それをさえぎるように、店に新しい客がやってきた。

「よお新入り。お前も殺されたクチか?」

「ああ……もうサイアクさ」

「いったいどんな殺され方をしたんだよ」

新しい客からただようケタ違いの絶望感に、
彼が受けたひどい経験を誰もが興味をひかれていた。

「いきなり集団リンチされて……」

「なんてひどい! そんな殺され方はひどすぎる!!」

「いいや、まだ死ななかったんだ。
 必死に逃げたけど、家も燃やされ家族にも手を出され……」

「そんな……」
「むごすぎる」

「どこまでも集団に追い詰められて……自殺したんだ」

「ひどい……」
「許せないっ」
「そんなことする奴は人間じゃない!」

これまで自慢大会をしていた犠牲者たちも、
男の独白には胸を痛めふつふつと許せない気持ちが湧き上がってきた。

「もう許せない! 俺たちで著者を倒そう!!」

「そうだ! こんなこと許せない!」
「このまま黙っていられるか!」


「……でも、読者の同意得られるかな?」

ぽつりとつぶやいた一人の言葉に全員の動きが止まる。

犠牲者といえどもとは作品の登場人物。
これから復讐しに行くのだから、読者の同意は得られないし
下手をすれば大きく人気が下がる可能性もある。

「だったら未来に行こう!
 未来なら今以上に犠牲者がいるから復讐しても問題ない!」

「きっと犠牲者も今の2倍以上になってるよ!」

「そんな大悪党なら復讐しても読者は同意してくれる!!」


「みんな! いくぞーー!!」

犠牲者たちは目を血走らせて未来へ向かった。
未来でも推理小説を作っていた作者はふいをつかれた。

「なっ、なんだお前ら!?」

「「「 覚悟ーー! 」」」


犠牲者たちは作者を袋叩きの集団リンチをし、
逃げた作者をどこまでも追い詰めて自殺させることに成功。


まもなく、過去の死亡居酒屋に客がひとり送られた。