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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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すみません!もうネタギレです!

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ネタギレ喫茶にはマスターと若い店員の2人しかいない。

「マスター。俺もネタギレ喫茶のマスターになれるんじゃないですか?
 こういっちゃなんですが、マスターより頭キレるし
 マスターよりずっといいアイデア出せますよ」

「ほほほ、そうだろうね。
 だけど、君はまだこの店の一番大事なことを知らない」

「そんなものなくたって、もう俺一人でカウンターに……」

店員が言いかけたところで、客が入ってきた。
見ただけで分かるほどげっそりとして「ネタ失調」だとわかる。

「ネタが欲しい……小説の……小説のネタを……」

マスターはにこりと笑った。

「そうですね。では、異世界にいった冒険者の話なんかを書いてみては?」

「ふざけるなっ!
 そんなありきたりなもの、書いても人気げるわけないだろっ!
 ここはネタギレ喫茶なんだろ! もっといいネタ出せや!!」

客はテーブルに金をたたきつけた。
マスターのせっかくのアドバイスも聞きいれようともしない。

その様子を見て、店員はチャンスとばかりに前へ出た。

「お客人、でしたら俺におまかせください。
 マスターよりずっといいアイデアを出せますよ?」

「本当か」

「ええ、なにせ若いですから」

店員は客から金を受け取ると、
自分の脳内でしっかり焙煎したネタを披露する。


「そうですね、例えばこんな設定で物語を書いてみては?
 白雪姫が桃太郎と結婚し……」

「ダメだダメだ! もっといいネタを!」

「むっ……では、妖怪の介護ヘルパーサービスというのは……」

「ダメだ! そんなんじゃ展開が書けない!」

「てっ、テレビの世界と現実世界とを行き来して……」

「なんだそのアイデアは! もっといいネタあるだろう!?」


店員は今すぐこの客の頭をビール瓶で割りたくなった。
それでもぐっとこらえて、アイデアを出し続ける。

かれこれ数時間、若い店員は吐き出せる限りのアイデアを伝えたが
客はいっこうに満足して帰ろうともしなかった。


「くそ! ここに来ればネタ切れが克服できると思ったのに!
 少しも俺のインスピレーションを刺激してくれやしない!」


「ネタギレなんじゃなくて、お前がネタを選んでいるからだろっ!」

「店員のくせに客になんて口のききかただ!
 もとはお前がもっといいアイデアを出せば解決するんだよ!」

「どうせなにを言っても文句つけるくせに!」
「なんだとぅ!!」

店員と客はまさに一触即発。
蛇口から水の一滴でもこぼれれば殴り合いが始まりそうな瞬間。

「まあまあ、ちょっといいですか?」

マスターがニコニコ笑いながらやってきた。


「お客様、見てください。
 あなたの作品に読者があらたに一人ついている。
 この一人はあなたの作品をずっと待ってくれているんですよ」

「ああ……そうだ、忘れていた。
 俺にはファンがひとりいたじゃないか!」

「この人はあなたがネタギレだと知らないし、
 知らないままいつ来るかもわからない更新を待っていますよ」


マスターのその言葉に焚き付けられた客は思わず立ち上がり
天井に向けて遠吠えの尾用に吠えた。


「うおおおおお!! やる気出てきたぁ!!
 そうだ、新作を書こう! 異世界にいった冒険者の話を!!
 うおおおお! やったるぜぇ! いんすぴれーしょーーん!!」


客が店内のドアをけ破りながら外へ出ていった。
若い店員は納得できなさそうに首をかしげている。


「あのアイデア、最初にボツにしたやつですよね?
 いいんですか?」

「店員くん。このネタギレ喫茶店で一番大事なことはなんだと思う?」

「客に最高のアイデアを提供することでしょう。
 そうすればネタギレなんてあっという間に解消できる」


「いいや、ネタギレを解消するのはアイデアじゃなくてやる気だよ。
 この喫茶店では最高のネタを提供する前に、
 またネタギレ作者にやる気を取り戻させるのが一番大事なことなんだ」


マスターの言葉に店員は胸をうたれた。

結局、ネタギレとして店に訪れるのはただの言い訳。
本当は自分の中でやる気がなくなっていることを
ネタギレだと理由づけてごまかしているにすぎなかった。

やる気さえ取り戻させれば、ネタギレは解消されるのだ。







「あれ? でもマスター、それじゃ、
 "もともと大したネタじゃない"ってことですよね?」