小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

お前はもう死んでいる、設定で

INDEX|1ページ/1ページ|

 
「俺の葬式に出てくれよ」
「いや、お前生きているじゃん」

「なんだよ生前葬も知らないのか?
 生きている間に葬式をするんだよ」

「そんなのなにが面白いんだか……」

とはいえ、友達の立場上行かないわけにもいかないので
生きている人間の葬式にはじめて参加した。

遺影と棺が置かれ、スクリーンには友人の写真が流れる。

『このたび、89歳で死亡いたしました私の初恋は小学生で……』

マイクを持つ友人は"自分が死んだ"設定で、
これまでの歴史を参列者にいろいろ話していた。

生前葬が終わると、すっかり自分の中で気持ちが変わった。
なんだか楽しそうだ。

「よし! 俺も生前葬やってみよう!」


まずは自分の遺影を撮影。
思い出の品々を集め、アルバムを引っ張り出し、BGMを選曲。
気分はまるで遠足の前日だ。

いざ、生前葬をやってみると
音信不通だった友人や学校の先生などもやってくる。

会場が人で埋め尽くされると、
これまでの人生にこれだけの人と関わっていたのかと感心する。

「えーー、このたび100歳で死亡いたしました、私は
 兵庫県に生を受けてわんぱくな子供として育ちまして……」

参列者は涙を流していたり、
うんうんと俺のどうでもいい歴史に耳を傾けてくれている。

生前葬が終わっても、この達成感と充実感はそう消えなかった。



道路の小石ほどの関心をも持たれていなかった俺が、
ブログを更新してもつぶやいても見向きもされなかった俺が

大勢の関心を集めて涙を誘っている!!

「こんなの最高じゃないか!!」

俺は地元だけでなく、さまざまな場所で生前葬をとりおこなった。
上京した友達なんかも巻き込んで生前葬をやるんだ。



「……あれ? ずいぶん少ないな」

何度も何度も生前葬をするたびに、参列者は減っていった。
ついには親族すら来なくなっていた。

思えば、まだ俺は30歳。

これまで30年分の歴史を水増ししまくって
すべての人生を振り返るように尺かせぎをしていたから飽きられるのも早い。

「そうだ!」

俺はひらめきの勢いそのままに生前葬を開いた。





「40歳では彼女に逃げられて、50歳ではジャーナリストとして
 世界の紛争地域に行っては写真を撮っていましたが
 突然の凶弾に倒れてしまったのです」

参列者がぎっしりと会場を埋め尽くす。
どの人も俺の未来の歴史に耳を傾け、涙を流す。

これまで30年分の歴史を語るのではなく、
この先死ぬまでの歴史を作って語ればよかったんだ。

フィクションだからいくらでもドラマチックにできるし、
参列者も涙を流しに来ているんだから願ったりかなったりだ。


ようし、飽きられないようにバリエーションも増やそう。


「私は30歳でリストラに遭い、途方に暮れて10年。
 なんと異世界のゲートに吸い込まれてしまうのです!
 そこからドラゴンとの死闘に明け暮れて……」

「40歳になると全能の神ゼウスを怒らせて神界戦争に!
 長きにわたる戦いのすえに50歳のとき
 魔弾の射手アスモディウスが私を神の矢で射ぬいたのです!」


これまで親族や知り合いだけだった葬式も、
子供や家族連れがどんどん増えてさながら映画館のようになった。

これだけの人に俺を見てもらえるなんて!

生前葬の公演後、最初の友人がやってきた。

「お前の生前葬見たよ、すごく感動したぞ」

「ふふふ、そうだろうそうだろう。
 今や俺はみんなの注目の的になのだ! ぬはははは!」

「でも、大丈夫なのか?」
「え? なにが?」


プルルルルッ。


タイミング悪く電話がかかった。


『もしもし? 君、リストラだから』

「えっ!? なんでですか!?」

『いや、急にどうしてもリストラしたくなって。
 こればっかりは説明できないよ』

「えええええええええ!?」

こんな雑にリストラされるなんて!


電話が終わると、友達が話の続きをしてくれた。


「生前葬って必ずその通りになるんだけど、お前、大丈夫?」

「え〝っ」



40歳になると彼女(ゼウス)に逃げられた先のゲートに吸い込まれ、
ドラゴンの死闘のすえに現実世界に戻るも
50歳で神界のジャーナリストとして活動中に矢で射ぬかれる未来が待っていた。


「どんな未来だよ!!」