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優しいSTORY

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一人でいる時間が多かった、僕はよく蟻を見ていた。公園ではなく、空き地、「群れからはぐれた一匹の少年が、蟻の群れの整然さを観察している」の図。

 その日も一人、多分夏休みだったと思う。蟻の行列を観察していた。蟻の一匹一匹の気持ちが知りたかった。が、少年の僕に分かろうはずはない。ただ漠然と――実はみんなひとりぼっちなんじゃないかな?と、感じていた。こんなにも大勢でいるのに。

 一匹の蟻に目が行く。ギコチナイ歩き方、片方の足が数本折れている様子。くるくるとこわれたおもちゃのように回転していた。滑稽ではあったが、おかしみは一切なく、ただただ悲しい。
 足折れた蟻、皆の流れについて行こうと必死に速度を増しているが、同じ場所で高速回転し続けるだけ。その脇を、無数の蟻がやり過ごしていく。
 (仲間ではないか?)と、思ったが、憤りにはならず、やはり僕の感情といえば陰惨な悲しみに落ち着く。

 朝の空は白に似ていたはずだが、回転する蟻が疲れてほとんど動かなくなった時候、お昼の空、ずっとずっと青みを増していた。今ならば青と言わず蒼と言うかもしれない。帰って焼きうどんを食べなければならないのだけれども、それはもうできない。
 蟻の行列は、消えていた。ほとんど動かない、障害を抱えた蟻一匹、青青とした空の中に、置き去りにされている。やはり悲しみしかない。



 空は無慈悲だ。こんなにもかわいそうな蟻を、なんという広さの下に置いているのだ?



 朝頃の僕といえば、「どうすれば僕は、この蟻の行列に加わることができるのかろうか?」なんて真剣に考えていたのだが、今はただ、足折れた蟻の隣に腰掛けて、多分彼も感じているであろう孤独を、同じ空の下で観賞している。
 僕の網膜の上で、空がユラユラと、プールの底から無上げた時のように、歪んで輝いている。彼の複眼には、同じ空が何十個も整列して、見えているのだろうか。だとすれば悲しみは、僕の比ではないだろう。

 と

 一匹

 小さな小さな蟻、足折れた蟻とは違う種類の蟻が現れて、キョロキョロと辺りを伺って、引き返したりまた戻ってきたり、その内、死にかけの蟻の身体に行き着くと何やらハッとした面持ちで大急ぎで引き返していった。その時、その一連を、特に気に留めてはなかった。が、数分後、異常事態が発生する。

 どこから湧いてきたのか無数の小蟻が這って来て、足折れた蟻を取り囲む。そうしてまたたく間に、ありの身体を持ち上げると、担架で急病人を運ぶように、いや、お祭りの神輿を担ぐようにして、(たぶん)彼らの巣に運んでいった。

「……良かった」

 僕は安堵と一緒に吐き出した――きっとあのー小さい蟻達は、ボランティアをしているグループなのだろう。そう思った。つまり、あの足折れた蟻は、かの小さき蟻達によって巣に連れ帰られて、手厚い看護を受けるのだ、と。

 僕は急に陽気になって、逆立ちの練習を始めた。そうしてお腹が減っていることを思い出し、彼らのように大急ぎで家に帰った。焼きうどんを食べに。

@@@@@

 そんな出来事があってから、前と比べ、一人でいる時間が減った。友達とよく遊ぶようになった。もう蟻を観察することはしなくなった。答えに近いものを、勝手に見つけて納得していたのだろう。



 だけど――



 だけれども、大人の今になって思うのです。

「あの小さな蟻達の目的は……あの足折れた蟻の真の結末は、ひょっとしたら、少年の僕の納得とは、少し違っているのではないでしょうか?」

 蟻に触覚があるように、僕にはネクタイがある。人は孤独にはなれない。この星にはもう60億もの人間がいるのだ。

 今朝も同じ方向に歩く、大勢の人と同じ方向に歩く日々。大勢の人と同じ日々を同じ気持ちで過ごしています。どこか機械に似た日常。でも孤独さは消えた。悲しみも薄れた。

 ところで、あの足折れた蟻の結末について、何か知っている人はいませんか?もしいらしたらお願いです。僕にそいつを教えんでください。

 逃げ場なくハッキリと知ってしまうときっと、僕はあっさりと壊れてしまう。そうして、あの足折れた蟻と同じように、ぐるぐると終わりのない旋回運動をする破目になる、と、思うのです。

 きっと、そうなるのではないかと、思うのです。
作品名:優しいSTORY 作家名:或虎