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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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こんなの全部偽物!

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「でさーー、昨日のテレビが面白くってぇ」
「女ってのは結局ああいうものなんだよ」
「あのゲーム、やっとクリアしたよ」

ああ、どいつもこいつもつまらない。
でもこんな人間を集めてしまったのは全部俺のせいだ。

嫌われないように、自分を抑えた結果
どこにでもいる普通の友達ができてしまった。

どこで間違えたんだろう。
もし、最初からキャラをやり直せれば……。


『ようこそ、偽物世界へ』


スタッフが笑顔で迎え入れた。

「ここは新感覚アミューズメントパークです。
 園内ではすべて偽物になってください」

「偽物……?」

「自分らしくいないで、って意味です。
 普段が誠実な人ならウソつきになって、
 優しい人なら横暴にふるまうのがルールです」

そんなこと……いいのだろうか。
でも、凝り固まった自分の殻を壊したい気持ちもある。

「さあ、偽物世界へどうぞ」

俺とスタッフは園内に踏み込んだ。

「あ、それと、言い忘れてましたが
 園内は基本的に出入り自由なので
 辛くなったらいつでも出てください」

園内にはたくさんの人が普通に生活している。
これだけ見れば普通の世界に見えるけど。

「って、そうだ! 偽物にならないと!」

俺と真逆のキャラ性……。
明るくて、人気者で、ポジティブ。

できるだろうか。

 ・
 ・
 ・

「いえ~~!! パーティピーポー! Fuu~~!!」

「うぇーーい!(ライッライッ」

偽物世界に入ってもう数日。
友達(フレンド)なんて初日でできたし、
みんなノリがよくて最高だ。

自分の殻を壊しただけでこんなに人生うまくいくなんて!!

もう現実世界に戻る必要なんてない!
ここで新しい自分としてふるまっていこう!

「みんな! 今日も飲み会だぜぇぇぇ!」
「「「 イエーー! 」」」

「合コンだぁぁぁ!」
「「「 Fu~~~! 」」」

「朝まで語り明かすぞぉぉ!」
「「「 うぇーーい!! 」」」


偽物世界に入って数か月が過ぎる。

日に日に偽物世界の"わざとらしさ"に気付き始めた。
自分自身のわざとらしさもあるし、他人のわざとらしさも。

「よお、主人公。今日は飲み会行かないの?」

お前、本当はそんなに楽しんでないんだろ?
無理して楽しんでいるフリしてるのわかってるんだから。

「主人公、合コンしよーぜ、合コン!」

お前も本当の意味で恋人なんて求めてないだろ。
ただ合コンしている自分をリア充って思いただけだ。


そして……。

そんな自分の本音を隠して、楽しいふりをして
みんなに求められる自分を演じている自分が一番嫌いだ。

「主人公。今日も朝まで語り合おうぜ」

「うん……うん!! そうだな! 語り合おう!」

そうだ。
本音を隠していたら友達になんてなれない。
語り合うのはウソっぱちじゃなくて、
自分の本音を語り合えばいいんだ。


『実は俺は、根暗でネガティブで地味な男なんだ!
 普段は明るくふるまっているけど、本心じゃ無理をしているんだ!』


と、友達に言ったはずだったのに声が出ない。


「どうしたんだよ、主人公」
「話したいことがあるんだろ?」

『俺は……俺の本心は……こんな人間じゃないんだ!
 このキャラはあくまで偽物で……』

俺の本心からの叫びはどういうわけか声が出ない。



―― 園内ではすべて偽物になってください


まさか……本音は絶対に語れないのか!?

「それじゃあ代わりに俺が。
 実は俺、チョー優しいところがあるんだ」

ウソだ。
本音は言えないはず。

「本当は人を助けるような仕事がしたいんだ」

ウソだウソだ。
園内で本音は言えない。


やっと俺は『偽物世界』の意味を知った。

ここに本物はない。
本物になろうとすることは許されない。

お互いに嘘で騙し合いながら、
居心地のいい空間を作っていくだけの世界。

「そんなの……嫌だ!!」

俺は最初に来た出入り口の方へと向かった。

ネガティブだろうが根暗だろうがかまわない。
それが俺なんだから。
偽物の自分になって、偽物の友達つくってどうなる。

「閉まってる……!?」

門は固く閉ざされている。
馬鹿な。出入り自由だって聞いていたのに。

「あっ……!」

スタッフが出入り自由だと説明したのは、園内に入ってから。
つまり、その説明の偽物なんだ。


「ふふ、おわかりいただけましたか?」

スタッフが最初のときと同じ笑顔でやってくる。

「偽物世界の人間を現実に返すわけにいかないんですよ。
 せっかく偽物生活が馴染んでいるんですから」

「わかったよ……諦める」

「賢明な判断です。
 あなたはここで偽物になりきって、本物を捨ててください」

俺はこぶしを握ると、普段の俺じゃできないことをやってのけた。
スタッフに襲いかかると力づくで門のカギを奪い取る。

ケンカなんてしたこともなかったのに。


ゴゴゴゴゴ……!


門が開くと同時に俺は現実世界に飛び出した。
そして、すぐに友達に電話する。

もう偽物でいる必要なんてない。
俺は等身大で本物の自分でいていいんだ。


「聞いてくれ! 本物の俺はフィギュアオタクで、
 15歳以下の女児にしか恋愛感情を持てなくて、
 女性に罵られることで感動を覚えるんだ!」


友達の答えはみな同じだった。

「「「 そんな本音受け止めきれるかっ!! 」」」