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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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夢の取扱説明書は捨てますか?

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「それじゃあみなさん、自分の夢を選んでください」

はなまる小学校1年1組の今日の授業は特別授業。
先生は黒板にさまざまな「夢」を箇条書きしている。

「夢を選んだら、先生のもとに取扱い説明書を取りに来てください。
 夢は一生かけて努力するものだからよく選ぶんですよ」

「ぼくは大工さん!」
「俺はミュージシャン!」
「わたしはお花屋さん」
「あたしは女弁護士!」

みんなすぐに決めて取扱い説明書を取りに行く。
わたしも少し悩んで、その取扱説明書を取りに行った。

「ええーー小林がその夢かよぉ」
「お前なんか、ぜったい無理に決まってる」
「そうそう、男っぽいし!」

「うるさいな! いいでしょ! 自分の夢くらい!」

男子を黙らせて席に戻ると、
取扱説明書を軽く読んでみる。
そこには、「夢」に向けて努力することがびっしりと書かれていた。

「みなさんは今日決めた夢のために努力しなければなりません。
 夢を持たない人間は無価値ですし、
 夢のために努力する人間こそが生きている人間ですから」

辞書ほどの厚みのある説明書を持たされて、
その日私たちの夢は完全に固定された。


特別授業をきっかけに、わたしたちのクラスは様変わりした。

「へぇ、サエちゃん、お花置くようにしたんだぁ」

「そうなの。取扱説明書に、花屋さんになるためには
 小さいころから花と触れ合っていることが大事だからって」

花屋さんを夢に選んだサエちゃんは、
前まで好きだった人形遊びを捨てて花に没頭するようになり

「マルイ、ドッジボールしようぜ!」

「そんな暇あるか! 俺は社長にならなくちゃいけないんだ!」

昼休みはいつも体を動かしていたマルイ君は、
社長になるため帝王学を時間を惜しむように勉強し始めた。

わたしも夢に向かって努力しなくちゃいけない。


<****への取扱説明書>

1、多くの友人を作りましょう
2、人との交流の場を多く持ちましょう
3、相手を気遣いましょう
4、時間に自由のきく仕事につきましょう
 ・
 ・
 ・


「うっ……多い……」

その数なんと1000項目。
もしかして、わたしは夢を間違えたのかもしれない。

「……お母さん、話があるんだけど」

「なあに」

「わたし、夢あきらめたい」

お母さんの顔が一気に険しくなって声が尖った。

「何言ってるのよ!!! 夢をあきらめたい!?
 夢をあきらめるのは負け犬のすることよ!
 正しい人間は、正しく夢をもって、それに努力しているのっ!
 夢をあきらめるような人間は、正しい人間じゃないわ!」

お母さんは何に怒っているのかよくわからないけど、
これ以上怒らせたくなかったのでその場はごまかした。

でも、わたしはもう夢なんか諦めてしまった。

みんなが取扱書を肌身離さず、それに従って今を過ごしている。
でも、わたしはいつのまにか取扱説明書を見なくなった。

それでいいかなと思っていたある日。


「明日は、夢テストをします。
 みんながどれだけ夢に向かって努力しているか、先生に見せてください」

「う〝っ」

取扱説明書の項目を達成すれば、マークがつく。
わたしの説明書はまっさらだ。

こんなの明日先生に渡せばお母さんにも連絡がいって、
わたしが夢への努力をサボっていることがバレる。

「そうだ! 失くしたことにしよう!」

私は説明書をもって学校の屋上へ上がった。
うっかり屋上に置き忘れたことにして、
雨にでもうたれればもう使い物にならなくなるはず。


「あっ……」

でも、屋上には先客がいた。

わたしとまったく同じことをしていた男子がひとり。

「……お前も、説明書を捨てに来たのか」

「う、うん」

その男子の説明書には達成マークがびっしり埋まっていた。

この男子の夢説明書を、わたしのものとして明日提出できれば……。
明日の夢テストはきっと高得点だ。

「ねぇ、その説明書、わたしにくれない!?」

「いいよ。どうせ捨てるつもりだったし」

「捨てた後は……どうするの?
 いままで夢に向かって努力していたんでしょ?」

「こんなのは夢じゃない。
 俺の夢はまだ決まっていないんだ。
 みんな同じタイミングで夢が決まるわけないじゃないか」

「君、明日怒られるよ……?」

「みんながおかしいんだよ。
 与えられた説明書にしたがって、ただ努力しているなんて。。
 あんなのは夢じゃないよ。ただのノルマじゃないか」

ノルマ。
その言葉で、わたしの中で何かがふっきれた。


びりびりっ!!



「おい! お前、なに説明書破いてるんだよ!?
 そんなことしたら、それこそ明日先生になんていわれるか……!」

「なんて言われてもいいよ。
 自分の夢に、指示された方法で努力したくないもん」


私たちは、翌日の夢テストに説明書をもっていかなかった。



※ ※ ※




「え? 終わり?」

「そうよ」

「お母さん、やっぱり怒られたの?」

「そうね、すごく怒られたわ。
 説明書には"絶対に夢をあきらめないで"って書かれていたし、
 "説明書の指示に従ってください"とも書かれていたんだもん」

「お母さんは後悔してる?」

わたしは、自信をもって娘に伝える。


「いいえ、少しも後悔なんてしてないわ。
 方法も手順も説明書どおりではなかったけれど、
 あの時、一緒に怒られたからこそ私の夢がかなったんだもん」

「お母さんの夢って……」

「およめさん、よ」

あの時の男子が今の夫。
夫はあのときから変わらず子供なままだけど。