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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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死にたい人は3番窓口へ

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「あの、自殺したいんですが」

自殺市役所に男がひとりやってきた。
今日は自殺市役所中を初めてテレビが入った。

「自殺ですね。では、この書類に名前と生年月日。
 それと、生まれてきて一番楽しかったことを書いてください」

「はぁ……」

男はしぶしぶ記入に入ったので、
リポーターは役人にマイクを向ける。

「こんにちは、ここが自殺市役所なんですね」

「ええ、そうです。ここで手続きをしての自殺なら
 誰にも迷惑がかからないんですよ」

「なるほど。では、引き続きカメラ回させてもらいますね」

男がちょうど記入を終えて窓口へ戻ってきた。
役人は渡された資料をいちいちチェックする。


「生まれてきて一番楽しかったこと……『特になし』?」

「一番楽しかったことなんてないです。
 だから、ここに死にに来たんですよ」

「ちゃんと書類を記入してもらわないと自殺は許可できません」

役人は男を突っ返す。
舌打ちした男だったが、しぶしぶ再度記入をはじめた。

「これでいいか」

「生まれてきて一番楽しかったことは、
 『はじめて父親に褒められた日』……抽象的ですがいいでしょう。
 では、2番の窓口へ」

「ああ」

男は2番の窓口にやってくる。

「では、この書類に住所と生年月日、電話番号に
 初めて好きになった相手を書いてください」

「また記入かよ!!」

「自殺したくないんですか?」

「チッ」

男は記入を急いで済ませる。

「これでいいんだろ」

「ふむふむ……初めて好きになった相手は『幼稚園の先生』ですね。
 いいでしょう、3番の窓口へどうぞ」

だんだん苛立ち始めた男が3番の窓口へ行く。
窓口では待ってましたとばかりに書類が出てきた。


「では、こちらの書類に名前と住所と生年月日と電話番号と、
 いつも使っているアカウントのパスワードと、
 できれば戻ってやり直したい時代を書いてください」

「また記入かよ! もういい加減にしろ!!」

「これも規則ですから」

「こんなのあと何回続ければ俺は自殺できるんだよ!!」

「あと152番窓口まで記入してもらえれば」

「ひゃくごっ……!?」

男は長すぎる数字に一瞬ひるんだが、
終わりが見えたことで逆に安心したように目の色が変わる。

「だったら、153番までの書類ぜんぶ持ってこい!
 いっぺんに記入してやるっ!」

男は残りすべての窓口から書類をもって記入に入った。
その間、レポーターがインタビューをすることに。


「ずいぶん自殺までの手続きが長いんですね。
 最初の1番窓口でまとめてやればいいんじゃないですか?」


「いいえ、わざと複雑にしているんです。
 その理由は2つあって、1つは……」


話に割り込むようにして、男が書類を持ってやってきた。

「ほら! 言われた通り、全部記入してやったぞ!」

役人はそれぞれ書類に目を通していく。
それから全員が声をそろえて宣言した。


「「「 ダメですね。最初の1番窓口からやり直してください 」」」


男はついに我慢できなくなって、書類をたたきつけた。

「ふざけんな!! もういい!!」

男は自暴自棄になって窓口から去って行った。
すかさずリポーターが役人にマイクを向ける。


「いいんですか? 帰っちゃいますよ?」


「わざと複雑にしている1つの理由がコレです。
 手続きがめんどくさければ、
 途中で自殺を思いとどまってくれるかもしれません」

「なるほど! 自殺をさせないためだったんですね!」

思えば、質問には必ず自分の過去についての質問があった。
なんども書類を書かせることで、自分の人生を振り返らせ
自殺させないための作戦だったんだ。


「よくわかりました。
 それで、複雑している2つ目の理由はなんですか?」

「2つ目は……」


その先を言う前に、撮影スタッフの1人が悲鳴を上げた。


「大変だ! 男が……男が自殺しているぞ!」

帰ったと思っていた男は、市役所の入り口で無許可自殺していた。
その責任は……

「私は悪くない、2番窓口が原因なんじゃないか」
「いいや、粋な人を書かせた3番窓口だろう」
「それを言うなら、151番窓口も原因になっただろう」

男の手続きにかかわった役人が必死に言い合った。
この模様がオンエアされるときには、テロップが入った。



手続きが複雑な2つ目の理由は、
こうして責任が誰にあるのかわからなくするためです。