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みやこたまち
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牧神対山羊(同人坩堝撫子4)

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 へへ。今回は付録から本編に昇格しました。千垣眞魚でっす。今しがた、役に立たないだけならまだしも、足手まといにまでなっているという駄目人間をほかしてきたところです。私が何にも知らないとでも思っているのかしら。人にはね、それぞれいるべき場所というのものがあるの。分かるでしょ。その場所が見つからない人たちが、頭を剃って、インチキ坊主の手下になって、いろいろ馬鹿なことをしでかすの。ううん。でもいいの。それは悪いことじゃあないって、思うの。だってうちの旅館、それでもっているんですものね。インチキ修行にあけくれるインチキ団体ご一行様をインチキな女将がインチキな温泉とインチキな田舎料理でもてなすってわけ。言っとくけど、この旅館をしきってる女将ってね、そう。あの腰の曲がった老婆よ老婆。あれ、陰花寺の尼さんだって、知ってた? 百二十をはるかに越えてもなお現役なんだよ。それってある意味すごくない? いいかげん長くない? 私そう思ったから、さっき息の根とめてあげちゃった。でも大丈夫。どうせ私はこの旅館から人知れず消える運命の元に生まれているんだもの。詳しいことは書かないけどね。反抗期っていうのかなぁ。なんにでも噛み付きたいとんがった時期って、誰にでもあるもんだ。で、状況さえ許せば殺してやりたいと思う他人の一人や二人はみんな必ずいるもんでしょう。私の場合もそうなのね。言ってみれば、時代が悪い? 貧乏が悪い? 形ばかりの情報化が悪い? 悪くないのは私だけってことで、そりゃあもう聖人君子なんていないって。三つ子の魂百十二まで背負ってるなんてのが、百害あって一里なし。きっと女将も若女将に宿を譲って、のんびりと涅槃でくつろぎたいと思っていたに違いない。私だったらきっとそう思うな。男子禁制の尼寺で火照る身体を慰めようと、若い男が集まるような、ひなびた旅館に納まって。何が貞淑、何が仏道。私はなから懐疑的だったわ。で、この女将っていうのが私の実の祖母らしいんだけど、ほら、私って自分の事にしか感傷的になれないっていうか、もともと血縁がはっきりしない生い立ちでしょう。だから、あんまり血に対する思い入れってないんだ。おかあちゃんって呼んでる人だって、本当はどうだかわかりゃしない。だってそうでしょ。産みの親より育ての親っていうけどさ、それって遠くの親戚より近くの他人ってことでしょ。混んだトイレに親も兄弟も無いってことだよね。つまり血のつながりってよくわかんない。分かったつもりの人だって、結局、自分がどの子宮から這い出してきたのか覚えてないわけでしょ。だから、そんなはっきりしないところにルーツやらアイデンティティーやらを求めるのが、そもそもないものねだりのアイウオンチュウだって、わかんないかな? それだから、インチキにひっかかるわけで、世の中がインチキになっていくおおもとだって思うの。その部分だけ寺山さんとは共感できないんだけど、他は好きなの。読めばすぐ分かる。書を捨てよ。町へ出よう。って寺山さんは言った。そういう点で、私は、「僕の前に道は無い。僕の後ろに道が出来る」っていうナルシスト指差し確認駄目男よりも「振り向くな振り向くな後ろには道は無い」の寺山ガケっプチの方が信用できちゃう。あらあら、ちょっと飲みすぎたかしら。調子にのって銚子を傾けちゃったからなぁ。でもまあいいや。里美さんは連勝街道爆走中だしね。強いな。里美さん。やっぱり私はあの人についていくんだ。あの人はなんていうかインチキじゃないって思えるもの。私、遠回りしたとは思いたくないの。ここでこうして出会うことが出来たこと、それが私のこれまでの人生を肯定してくれているじゃない。だから、女将を涅槃に案内したのだって、その一環なんだから万事問題無しで、これから私がする全てのことも、私にとってはみんなアリってこと。
 ううん。里美さんに頼って生きていくってことじゃない。酔った勢いで言わせてもらえば、里美さんだって、私をこのへんてこりんなトンネルから連れ出してくれるために必要な、いわば切り離し三段ロケットみたいなもんよ。つまり、私の登場を準備する役目。キリストにたいするヨハネみたいなもんかしら。先触れであり、前兆みたいなもんよ。私が産まれるその時に、世界を少しばかり整えておいてもらえればいいわけ。でも、これは里美ちゃんには内緒のこと。人ってね、かならずしも、自分のなすべきことを自分で理解している必要は無いの。ムカデが自分で理解して歩いていると思って? あれは神経の反射だけで歩いているんです。次にどの足を前に出すのか考えていていたらムカデは一生歩けない。たくさんの足をもつばかりに、一歩も歩くことが出来ずに死に絶える。これって深げじゃない? ことあるごとに使ってしまいそう。ふふふ。やっぱ、天才よね。私って。
 天才の私はちゃんとわきまえているの。今がまだその時じゃないって。だから、部屋の片付けだってけなげにこなすわ。里美ちゃんももうすぐ帰ってくるし。ああ、さっき廃棄物運びにつかった男のこと? あれこそ哀れの見本よ。破門になったらすぐにどこかにもぐりこまないと死んでしまう、ヤドカリみたいな奴らよ。せめて、かたつむりなら、自前の家を持てるでしょうし、亀なら甲羅を剥がされた時点で死ぬじゃない。借り物で生き延びようっていう魂胆がインチキだわ。だから、慌てて逃げ込んだ殻に、毒が仕込んであっても気付かない。そんな馬鹿が十四人いる。あのトンネルってさ、夜出歩くと絶対神隠しにあうんだよ。私知ってるもん。なんかいるらしいよ。まあいいじゃないの。一晩で十五人くらいが消えたって、お国には影響ないでしょ。宿の払いは前金だし。家族を捨ててる連中ばかりだから、悲しむものも誰も無いってわけ。六道のどこに落ちるか知らないけどね、輪廻を否定していたから、どこかしらに落ち着くことになるんでしょうよ。
 さあてと。里美ちゃん、早く帰ってこないかな。
 
第五回に続く。