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Hysteric Papillion 第4話

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……何が起こったの…かな?









頭の中身だけ宇宙の果てまで飛んでいっていた私を元に戻らせたのは、口の中を這い回るような何かだった。

店の中の人みんなが、薫さんとの、この女同士のとんでもないキスを見ているんだと思うと、何というか…恥ずかしくてたまらない。

柔らかい唇が押し当てられていたのが、とても長く感じられた。   









そして、今はもう、薫さんの体の一部が口の中に入り込んでいる。   









唇をくすぐられて、その絶えない刺激に仕方なく我慢できず開いてしまった口の中で、それは、自分の舌と絡まっていた。   

柔らかくてあったかい…ぬるって、唾液を媒体にして、口の中が何かで満たされていく感じ。

そして、じゅるっという音がして、今度は薫さんの方に吸い込まれた。

しかし、本当はこの行為が、異性の人間と行うはずの行為であるはずなのに、薫さんとの方が、想像したり、映画で見たキスシーンよりも、ずっときれいな気がしたのも正直な気持ちだった。   








カフェのBGMも、他の客のざわめきも聞こえない。   




クラクラする意識の中で、ただ耳に届くのは口の中で舌の交じる音だけ。   




なぜかよくわからないけど、素直に、いけない、と思った。   









そのままどれだけ時間が流れたのかわからない。

ようやく薫さんは唇を離してくれた。

私の唇との間に、透明な唾液の糸ができるほど。

それほど舌が絡まって、唾液が混ざっていたんだと思うと、顔が熟したりんご状態になっちゃいます。 

体の中も外も、心までも、とろとろになっていた。









えーっと…。








何時間あのままだったんだろ…。










そう思ってのぞいた時計だったはずなのに、まだ、7時半を少し過ぎたくらいだったことが驚きでしかない。   

「まだ…7時半…」  

「あ、もしかして…初めて、とか?」   









え…っ…。









『初めて』   









…ああああああああああ!!??  









「そっか、変に他の人の癖がついてないから、かわいいんだ」  

「はっ…初めてって…」
  
その言葉を改めて思い直した瞬間、自分の1stキスが、薫さんとの、この見せ物のようになったキスだとわかる。   

普通は、こういうのってもっとロマンチックなものじゃないのだろうか。

あー、でも、多分この言葉を言えば、この人は、『ロマンより刺激でしょ?』とか言ってきそうだから、却下した。  

ただ、何か気持ちがブルーになってきて…。 

ただ、ちょっと体が重くて…。








くたっと薫さんの肩にもたれるようになってしまった。   








…バカ。   








こんなことしたら、この人の思うがままだというのに…。  

「可愛い!」   

ぎゅーっと抱きしめられる。

そして、そのまま、『抱きしめ』のオプションのように、頭を優しくなで続けてくる。  

「何だかうれしくなっちゃうな、君の1stキスの相手になれただなんて」  

「…私、女なのに」   

そうボソッと言うと、少し、薫さんの眉が引きつった気がした。   

でも、別に怒っているというわけじゃないみたい。  

「世界にはたくさんの人がいるんだもの。恋愛の方法なんてたくさんあるわよ。ただ私の場合は、それが君みたいな可愛い女の子に向くだけ」   

…とか何とか言って、もう一度キスしようとしてくるけど、間一髪でよけきった。

「ひ…人が見てます!?」  

「見てないよ」   

え??見てない??  

あたふたする私の耳元で、両肩に手を置いて、薫さんがそっと言う。

「…誰がこんなところでキスするなんて思う?しかも女。それに、もうお店には私たち以外、誰もいないのよ?」   

よく見てみたら、他の席はみんなガラーンとした感じで、むなしくBGMが流れているだけだ。しかも、閉店間際の音楽だった。   

つまり、先ほどのキスを見た人間は、偶然こちらを見た通りがかりの人数人くらいのもので、見せ物というわけじゃなかったんだ…(数人だけでも、見せ物だとも思うけど)。  










「安心した?」  

「…まあ」   

まだ少しふらふらするけど、歩けないことはない。

薫さんと少し離れて歩いていたけど、頭の芯がぐらついて、ついもたれてしまう。

うーん…多分、これも薫さんの思い通りなんだと思うと、ちょっと悔しい気もする。   

薫さんが食事もおごってくれるというので、素直に従うことにした。   

どうせ家に帰っても、お目付け役とおじさんたちに説教を食らうだけなんだし、同じ説教を食らうなら、とことん遊んでからにしようと思ったから。   

行き先はどこがいい??と聞かれたので、私は素直に行ってみたい店の名前を答えると、思い切り笑われてしまった。  

「やっぱりお嬢様は違うわね?」   

そう、くすくす笑いながら、私の腕を取り、自分と絡める。   

映画で見た、恋人同士のようだなって思う。

しかも、薫さんのほうが背が高いので、つりあいも取れる。   

その店に行くまでの間に、少し質問をしてみた。   

いろんなこと、女の子が好きなのかとか、年のこととか、仕事のこととか…。   

でも、年や仕事のことはごまかされて、何もわからなかった。   

「君のこと好きなのは、わかってもらえてる?」

「…もうっ、結局うやむやにするんですね?」

「謎がある女のほうが美しいって言うでしょう?」

そ、そういえば、どこかでそういうの聞いたことあるなぁ…どこでだったかなぁ…。

なんて悩んでいると、薫さんは、くすくす笑いながら、こっちを覗き込んでいた。

信号待ちだったみたい。

赤が青になるまでの数十秒の、視線のランデブー。

…………緊張する…。

「…でも、いろんな人が世にはいるってこと、高校生の君になら、わかるでしょう?」

「いろんな、人?」

「女を好きになる女、男を好きになる男、っていう存在もいるでしょってこと」

世の中じゃ、ヘテロだとかホモセクシャルだ、とか用語がいっぱいでしょうって、薫さんはいろいろな横文字言葉をくれる。

「…くわしいんですね?」  

本当にそう思って、感心して言ったのに、どうしてか、薫さんの顔は、小さく苦笑を浮かべたようなあまりいい笑顔ではなかった。

「うん…まあ、ね」   

うつむくような無理やりの薫さんの笑顔の後、何だか聞いちゃいけないことだったのかな…と思うほど、沈黙した時間が過ぎていった。    

無理やり抱きしめて、抱き人形代わりにした人。   

ロザリオを引っかけて朝から私に迷惑をかけた人。

遅刻している女子高生をナンパした人。   

痴漢を捕まえてくれた人。   

私の…1stキスを奪った人…。   

薫さんの思いつめたような大人の微笑みを見ながら、そんな言葉が私の頭の中を行ったり来たりしていた。   







作品名:Hysteric Papillion 第4話 作家名:奥谷紗耶