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熾(おき)
熾(おき)
novelistID. 55931
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月のあなた 下(2/4)

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☾ 遠い月(齢不明) 1(2/2)


  
「この街には守り神だっているからな。なあ、老い知らず」

 千切ったパンが差し出されたので、思わず尻尾を振って吠えた。
 蜜が塗られているそれは、この上無い平安の味がした。

「まあ、老い知らずったら」

 頭の上で、若い夫婦が笑った。
 白い雷が、空を覆った。
 次に、大地が割れる如き恐ろしい音と、熱波の王のような地獄の風が――

  *

 砂から自分を再構築するのには、一晩が掛かった。

 軽い自分は、ずいぶん遠くまで吹き飛ばされたようだった。
 何とか三本生やした足でよろよろと村を見て回る。
 いや、正確には、村だったもの。象の牙の様に地面に刺さる黒焦げの椰子や、それの跡形もなく折れたもの。村の外壁は祈りの言葉と共に吹き飛び、村の家々も、巨人の掌で上から押さえつけられたように地面に沈み、土砂に覆われていた。

「こどもたち」

 四本目の足を再構築すると、走り出す。
 半壊した外壁の見張りの塔。そのそばでひしゃげた自転車に、見覚えがあった。
 両前足で、必死になって土砂をかぶった瓦礫を掘る。前足が疲れたら、後ろ足を使った。瓦礫は、取り払っても取り払ってもなくならないように思えた。

 やがてその下から出て来たのは、強く抱き合ったまま変色した二人の死体。
 恐らく思考する暇もなかっただろうが、女の額は男の胸に。男の顎は女の頭に乗っていた。四本の腕はお互いの背中に回され。星々の輝きを宿していた四つの瞳は、静かに閉じられたまま。

「すまない」

 頬を舐めると、降り被った灰に、殺しきれぬ死の味がした。
 全身の毛が逆立った。
 
 恐ろしい毒を持った灰だった。

 これでは。
 二度と水は飲めず、椰子は食えず、人は住めず。
 これでは、もう二度と村を作る事さえ、できない――