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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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オトナになるための最低10年

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「おい君! 横入りだぞ!」
「うっせぇな、入られるようなスペース作るお前が悪いんだろ」

それだけ言うと男はしゅんと黙った。
映画館に入ると、前の人の頭が邪魔だ。

「おいてめぇ、俺と席かわれ」

「いやでもこれはS席で……前売り券が……」

「あ゛ぁ゛!?」
「ひぃ! ごめんなさい!」

隣の奴のポップコーンを奪い取る。

「あのっ……」
「なに?」
「いえ……」

文句があるならかかってくればいい。
まったく、この国の人間はちょろすぎるぜ。

開始のブザーを待っていたが、
鳴ったのは警報だった。


"コドモ警報発令!"
"コドモ警報発令!"

" 関係者はすぐにコドモを見つけてください!!"

「な、なんだぁ!?」

すぐにやってきた屈強な男によって、俺は連れていかれた。



「ここは……?」

「君のようなどうしようもないオトナが入る場所さ」

「ふん、刑務所ね。ああ、慣れてるよ。
 もう何度か出たり入ったりしているから別荘みたいなものさ。
 いっとくがこんなんで俺を更生させるつもりなら……」

「いや、ここは幼稚園だ」

電気がつけられると、子供っぽい配色の遊具に
幼稚園児の服を着せられた俺は立っていた。

胸には"きりん組"とダサいバッチまでつけられて。

「オトナ幼稚園へ入園おめでとう」

幼稚園校長の笑顔に背筋が冷えた。



「はーーい、みんなでお歌を歌おうね!」

「「「 ………… 」」」

収監されているのはみんな中年といった
園 "児" とはいえないオトナたち。

当然、自分より年下の保育士に従うなんて
とてもプライドが許さない。

「はい、それじゃ、みんなうさぎ組に降格♪」

バッジが付け替えられた。

「うさぎ組?」

「年長のらいおん組になってから
 1年しないとここから出られないのよ」

「はぁ!?」

うさぎ、きりん、ぞう、らいおん。
つまり、最短でも4年はこの辱めを続けるのか!?

「バカバカしい! 俺はやめる!」

しかし、園の外は有刺鉄線に電気柵。
下手な牢屋よりもずっと厳重で、ずっと容赦がない。

「あなたたちは、意味なく歳くって偉そうにしているだけの人間。
 マナーも守らなければ、常識もかき乱す害虫。
 いっぱしの大人として胸をはるなら、まずここを卒園してみせなさい」

ここではどんなに強い言葉で脅しても。
暴力を振るってもびくともしない。

ここでオトナになるしか、出る方法はない。



「人に暴力を振るっちゃいけません」
「自分が嫌なことは人にしちゃいけませんよ」
「なんでも自分が正しいと思わないこと」
「困っている人がいたら助けるんですよ」

「はーーい、先生!」

やっと、らいおん組にまで進むことができた。

当たり前のことを、当たり前にこなす。
そうしていけばオトナとして認められていく。

そんなのはプライドや見栄を捨てれば簡単なことだった。

「ここさえ出られれば、元の生活に戻れる」

その後も細心の注意を払いながら幼稚園生活を送って1年。
ついに卒園の日が訪れた。


「卒園おめでとう」

「はい先生! 卒園してからも僕はここで学んだことを
 当たり前にこなしていけるオトナになります!」

「うむ、ちゃんと更生できたようだね。ではこれを」

渡されたのは卒業証書ではなく、カードだった。

「この卒園カードで門を開けることができる」
「ありがとうございます!」

やった! ついに自由の身だ!
この4年、めちゃくちゃ長かった!

もう二度とこんな場所に入るもんか!


俺は門に向かう。


「これでオトナになれたぜ!!」

カードを差し込むと門が開く。
その先には、さらに大きな建物が待っていた。



「オトナ小学校へ入学おめでとう!
 これから最短6年、オトナへの階段を一緒に登ろうね!」