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はじまりの旅

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 しばらくすると、小さなドラゴン『ムー』が目を覚ました。
 クグレックたちの姿を見ると、ムーはびくびくと縮こまる様子を見せたが、ティアの姿を見ると安心したのか落ち着きを見せた。
 そして、5人を目の前にして、ムーはしょんぼりとした様子で立ち上がり。震える声で。
「この度は、魔に憑かれて迷惑をかけてしまったようで、本当にごめんなさい。」
 と言った。そして深々と5人に頭を下げた。暴走していた頃の巨大竜からは想像できない丁寧さと慎ましさである。
「いいのよ。過ぎたことなんだし。」
 ティアはぽんぽんとムーの背中を撫でた。
「でも、多分、ぼくは過ぎたことだと流すことのできない程のことをしてしまった、よね。」
 悲しそうに上目遣いで尋ねるムー。
「覚えてないのか?」
 ディレィッシュが尋ねると、ムーはこくりと頷いた。
「真っ暗な世界にいたことだけははっきりと覚えているけど、あとはうっすらとしか分からないんです。でも、…いろんな感情が僕を包んでただただ苦しかった。僕は…」
 ムーの夜闇の様に濃い藍色の双眸がわずかに憂いを帯びた。
「魔が暴れるのは、必然的なことなんだ。」
 ディレィッシュが言った。
「君が魔に取り憑かれていたのが間違いないのであれば、それは必ずどこかで押さえきれない状態になっていた。それがたまたま今だっただけで。むしろ、君が大きくなって力が強くなっていた時に魔が暴れていた場合、もっと深刻な状況になっていたかもしれないだろう。」
 「…でも、僕…」
 間違いなくムーは無差別に立ち向かって来る者達を襲った。その感覚は彼自身になんとなく残っているのだ。
「気にしたらキリがないわ。あなたは特別なドラゴンなのだから、魔が暴れたのが今で良かったわよ!魔のせいでそれなりに大きなドラゴンになってたけど、成長した後に魔が暴れてたら御山どころかコンタイ国も支配と文明の大陸が亡びてたかもしれないのよ!」
 彼の友人であるティアが強い口調で言った。
「だから、あなたはもうちょっと強くなりなさい!また魔に取り憑かれるわよ!」
 腰に手を当てて、まるで姉の様にムーに声を荒げるティア。叱られたムーの首はさらに項垂れていく。
 なんだか張り詰めた雰囲気にクグレックははらはらした。こういう時、彼女はどうすることも出来ない。ところが、そんな状況を打破するかのようにニタがムーに対して質問した。
「そう言えば、ムーってアルトフールについて知ってる?」
と尋ねた。ムーにとってはなんの脈絡もない突然の質問にきょとんとした様子でゆっくりと顔を上げる。
「え?知ってますけど…。」
 さも当然の如く答えたムー。彼らが欲していた情報はあっけなく手に入るようだ。
「ちょうど良かった。あのね、ニタ達、アルトフールへ行こうとしているんだけど、どうやって行ったらいいのか分からなくて。御山は神託を与えてくれる特別な場所だから登ってみたところ、頂上のドラゴンが導いてくれる、ってお告げがあったんだ。」
「そう、なんですか…。でも僕なんかが、誰かを導くだなんて…。」
 ムーは再び伏し目がちに俯いた。
「ニタ達、アルトフールのことは殆ど分からない上にどうしたら辿り着けるのか分からなくて困ってるんだ。ねぇ、ムー、ニタ達を連れてってよ。アルトフールに。」
 ムーは恐る恐るティアを見遣る。ムーと目が合うとティアはにっこりと微笑んだ。
「行ってきたらいいじゃない。御山でひっそりと過ごすよりは、ニタ達と外に出た方が良いと思うわ。ニタ達、腕もあるし。」
「…ティアは?」
「あたし?あたしは行かないわ。あたしの目的地は、違うから。あたしは踊り子として生きたいの。そのためにも、あたしはまだここにいないと。」
「そっか…。」
 クグレックは改めてティアの意志を聞いて少しだけ寂しく思った。ティアと一緒にアルトフールへ行くことが出来たら、きっと楽しかっただろうに、と。だけど、進むべき道がはっきりしているならば、仕方がない。
 ムーは再びニタ達を見据えた。
「じゃぁ、僕、あなた達をアルトフールに案内します。魔から救っていただいた恩もありますし。でも、どうして、あなた達はアルトフールを目指すのですか?」
 と、質問を繰り出すムーだったが、気弱な彼は自信なさげに視線を地面の方に落としていく。
 ムーの問いに一番に答えたのはニタだった。
「幸せになるため!」
 そして、ニタに続くのはディレィッシュだ。
「私達も、ニタがアルトフールに行けば幸せになれるっていうから、便乗しているにすぎない。それに、私達は魔抜けの代償で還る場所がないからな。アルトフールが思ったところと違うのであれば、また別のところを探そうと思う。だけど、アルトフールへの辿り着くまではニタとクグレックを守るのが私達の役目でもある。私達は、二人に救われたのだから。」
 と語るディレィッシュにハッシュは静かに頷き、同意する。
 そして、ムーの視線はゆっくりとクグレックに移動した。
 クグレックはムーと目が合うと、ピリピリとした気まずさを感じてしまい、視線を逸らしたくなった。だが、クグレックは気付いた。ムーの視線はクグレックを品定めするような視線ではなかった。クグレックの答え次第で、アルトフールの案内をするかしないかを見定めているわけではないように感じられたのだ。
 むしろ、この小さなドラゴンはクグレックと同じ感情を内に抱いている。不安と恐れを抱いている。
「私は…、この世界が明るくてキラキラしてて、…楽しいものであるかどうかを確認するために、アルトフールへ行く。もし、世界が故郷の荒野の様に煤けて寂しいものであるならば、私はニタが幸せになることを願って全ての旅を終える、つもり。」
 クグレックは皆の前で「死ぬ」とは言えない程度には、仲間としてニタ達のことを好きになっていた。心優しい彼女は先立たたれることの悲しさを十分知っている。だから、アルトフールが黄泉の旅路であることを明言することは出来なくなっていた。
 すると、不安と恐れを纏っていた小さなドラゴンの空気がふっと和らいだような感じがした。
 意外にもクグレックの答えが小さななドラゴンの迷いを取りのぞくことが出来たようだ。

「アルトフールは望みさえすれば、あなたたちの願いを満たしてくれる場所です。決して楽な道のりではありませんが、僕の力の限り、案内させていただきます。」

 小さなドラゴンはぺこりと頭を下げた。
 そしてクグレック達の旅の道筋は深い霧が晴れ、果てしない世界が広がり始めた。それは、この冬の青空のように静かなる希望に満ち溢れている。





作品名:はじまりの旅 作家名:藍澤 昴